■「怖いから」(ヨハ翔)■

十翔前提でヨハ→翔(^^ゞ二人きりなので。








「アニキー、はぐれちゃったんすかー?」
てっきり後ろから付いてきていると思ったが、何処かではぐれてしまったらしい。
単独行動は危険だし、翔が方向音痴の十代を過剰なほど心配するので、コブラ捜しは後回しに、十代捜しが優先となった。
「こう真っ暗だと何かおっかないっすね・・」
翔が辺りを見回して言う。
入ってきた時は煌々と電気が点いていたが、班を分けてすぐ、停電になってしまった。
電源が落ちてしまったのか、切られたのか。
どちらにせよ、自分たちに優位な状況ではない。
「ひゃあ!」
突然がさり、と大きな音がして、翔が文字通り飛び上がった。
「誰だ!」
音のした茂みを素早く掻き分ける。
走り去る影は小さく、足音も大きくは無い。
此処はサルや動物を使って実験をしていた研究所だったそうだから、そういった動物が野生化して残っているのだろう。
「何だったすか?」
ヨハンの後ろから、翔が恐る恐る覗く。
「多分、サルかなんかだと思うな」
「サルかぁ」
ヨハンの言葉に翔は安心した、という風に息を吐いた。
「翔は怖がりなんだな」
その様子に笑うと、翔は唇を尖らせた。


同じ年とは思えないその子供っぽい仕草が、可愛らしいと思った。



「ヨハンは、オバケとかそういう・・目に見えないものが、怖くないの?」
再び十代を捜して歩きだしながら、翔がそう聞いた。
見えないもの、得体の知れないもの。
翔にとっては精霊たちも其処に入るものなのかもしれないな、と思う。
自分にとっては普通に見えて、其処に居るもの。
「オレは見えるものの方が怖いけど」

 

剥き出しの悪意や、敵意の方が、ずっと。



人間の、方が。



「そうかなぁ?」
ヨハンの答えに翔は納得がいかないようだ。
「見えないとどうしたらいいかわかんないけど、見えたら対策も取れるじゃない?逃げたりも出来るし」
ヨハンは少し考えて言った。
「もしかして、眼鏡かけて寝るの、だからか?」
「うん」
翔は素直に頷く。
「小さい頃オバケが怖いって言ったら、お兄さんがよく見えないからいろいろ見間違えて怖いんだろって」
「ふうん」
「見えれば怖くないだろって」
そう言って翔は照れくさそうに笑った。


多分、翔はその兄や、友人たちに守られて、幸せに育ってきたのだろう。


ほんの少し、意地悪をしてみたくなる。




「ヨハン?」
覗き込んでくる翔に、ずい、と顔を寄せた。
「え、ナニ?!」
驚く翔に畳み掛けるように問いかける。
「・・・見える?」
「え、見えるよ?近いし・・眼鏡かけてるし」
何を言い出したのか、という顔で翔が答える。
もっと顔を近づけた。
「これなら?」
「見えるよ」
ヨハンは笑った。


「じゃあ、怖くない、よな?」


ヨハンは翔の額に唇を押し当てた。
ちゅ、と音を立てて離れる。
「なっ・・!」
吃驚して飛び退いた翔に、にこり、と笑って訊ねる。


「オレのこと、怖い?」


我ながら人の悪い笑みだ、と思った。




「怖くないよ!」
翔は額を拳でごしごしと拭きながら、べえ、と舌を出して見せた。
強がっているわけではなく、本当に何とも思っていないのだろう。
ふざけて舐めた、位の感覚。
「何だつまらないな」
「もー」
勤めて冗談っぽく振舞うと、翔がまたぶぅ、と唇を尖らせた。
「でもまあオレは怖いから、この辺で止めておこうかな」
「・・・何が怖いんすか?」
翔が不思議そうに首を傾げる。


「いろいろ、かな」

 

十代を怒らせるかもしれないことも


・・・本気になってしまうかもしれないことも

 

「ふうん?」
ヨハンの返答に納得がいかない様子の翔に笑ってみせる。
「さ、はやく十代を捜さないとな」
「うん」
話を逸らすかのようにそう言うと、翔は素直に頷いた。
十代の話題を振ったとたんに、その他のことは二の次になってしまう。

 

 

翔のわかりやすいその態度に、ヨハンは少しだけ苦笑した。

 

 

END

 




十翔前提でヨハ→翔

 

また調子に乗ってヨハ翔です(^^ゞ
ヨハンってどういう生い立ちなのかよくわからないですが
精霊を家族とか言ってるし
親兄弟居ないのかなぁ、と。
翔は兄に溺愛されて育ってきてますが(笑)
多少のすれ違いはあれど。

ウチのヨハンさんは翔に興味津々。
二人っきりだしってことで。


翔が風呂の時も寝るときも眼鏡を外さないのは
お兄さんの入れ知恵ではと思ってます。
外すとよく見えないからカーテンとかでもオバケに見えちゃって
翔が怖がるので
お兄さんの苦肉の策、みたいな。

私は修学旅行のとき、夜眼鏡を外していて
鏡に映った自分にぎょっとしたことがあります(笑)

2006.12.10

 

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