■餌付け(覇翔)■

覇→翔
パラレル・アニキと覇王さまが双子設定








「よし!」
弁当を掻き込んだ万丈目がガタンと立ち上がった。
「デュエルだ!十代!」
「おう!」
同じく十代も口の中にパンを押し込んで立ち上がる。
朝からくだらないことで揉めて昼休みにデュエルで勝負!ということになったのだ。
「待ってよアニキ〜」
万丈目と共にさっさと教室を出て行こうとする十代に翔は言った。
翔は食べるのが遅いのだ。
「早く来いよ、翔」
頭の中はもうデュエルでいっぱいな十代はそう言って教室を飛び出して行ってしまった。
「も〜」
ブツブツ言いながら翔は箸を動かす。
十代はデュエルとなったら翔のことなど2の次なのだ。
きっとデュエルすることになった原因さえ忘れているに違いない。
置いていかれたのは面白くないが、十代のデュエルは観たいし応援したい。
翔は懸命に口を動かした。
静かに椅子を引く音がして、見ると覇王が翔の隣に座っていた。
購買にパンを買いに行っていたらしい。
双子なのに全然性格違うなあ。
覇王が紙袋を開け中からパンを出す様を見ながら翔は思った。
覇王は十代よりもどこか大人びた雰囲気がある。
実を言うと其処がちょっと苦手なのだけれど。
其れは翔だけが感じていることではないようで、覇王はクラスから少し浮いた存在であった。
再び弁当を食べる事に集中していた翔がふと気が付くと覇王がじっと此方を見ていた。
「なに?」
恐る恐る聞いてみる。
覇王の視線は翔の弁当箱の中の玉子焼きに注がれていた。
「欲しいの?」
続けて聞くと覇王はコクンと頷いた。
こんな所もまるで違う。
十代ならば、一個くれと直接言ってくるだろう。
此方がいいよ、と言う暇もなく、勝手に口の中に放り込む様までが容易に想像できる。
「・・・食べる?」
更に訊ねると覇王はもう一度コクンと頷いた。
玉子焼きは翔も大好物ではあるが、食べて貰えればその分早く十代のデュエルを観に行ける。
「じゃあ一個あげるっス」
翔は覇王の口に玉子焼きを放り込んだ。
「美味しい?」
聞くと覇王はまた頷くことで答えた。
何だか動物に餌をあげているような気持になる。
小動物ではなく、チーターとか豹とか、大型の猫科の動物だ。
怪我をした野生の動物を世話しているような気分。
人には慣れないそれらが自分にだけは心を開いてくれるのだ。
自分に、だけ。
其れってなんか素敵かも。
後半、得意の妄想に突入していると、再び覇王がじっと見ているのに気がついた。
「・・何っすか?」
問うと、ずい、と拳を突き出してきた。
びく、と思わず逃げ腰になる。
しかし良く見ると覇王の手には購買部で売っているプリンが握られていた。
「あ、とろふわプリン!!」
思わず大きな声を出してしまう。
翔はこれが大好きなのだった。
だが、購買部の人気商品なため、なかなか口に入らない。
翔のようにチビで少々鈍くさい者はなかなか昼の購買部での戦いに勝ち残れないのだ。
「うわーこれボク大好きなんだ〜美味しいよねぇ。覇王も好きなの?」
羨ましげに言うと、覇王はさらに其れを翔の方へと突き出してきた。
「ええと・・・くれるの?」
首を傾げると覇王はまた頷くことで応える。
卵焼きのお礼のつもりなのだろうか。
「ありがと」
とりあえず受け取ると、覇王は満足したのか自分のパンを食べる作業に戻って行った。
翔も自分の弁当をかき込みながら考える。
卵焼きのお礼のつもりでくれたとしても、卵焼き一つとプリン一個では等価交換とは言えない気がする。
どう考えても貰いすぎだ。
弁当を食べ終わって、プリンの蓋を開けながら、翔は訊いてみた。
「半分食べる?」
翔の言葉に覇王はちらりと視線を寄こすと簡潔に返事をする。
「いらん」
「でもさ、食べたくて買って来たんでしょ?卵焼き一個でプリンひとつ全部食べちゃ悪いし」
翔は食い下がった。
覇王の表情が初めて揺らいだように見えた。
「・・・・甘いものは好きじゃない」
「ええ?じゃあなんで買ってきたの?」
何度も言うがこのプリンは売り切れ必須の購買部の人気商品なのだ。
買うだけでも大変だろうに、好きでもないのに何故わざわざ。
翔のもっともな質問に覇王は言った。


「お前は好きなんだろう」


「え・・」
つまり、このプリンは、翔の為に買ってきたものだ、ということだ。
覇王に直接プリンが好きだなどと言ったことはない。
けれど翔が喋っているのを聞いて、覚えていてくれたのだ。


もしかして本当に野生動物に懐かれちゃったのかも。



そう考えるとちょっと気分がいい。
翔はニコッと笑ってもう一度礼を言った。
「ありがと!」
大好きなプリンを美味しく頂いて、翔は慌ただしく弁当箱を片付ける。
さすがの十代もまさか万丈目を瞬殺、ということもあるまいが、急いでデュエルを見に行かねばならない。
早くしないと決着がついてしまう。
翔は席を立つと覇王に言った。
「また今度卵焼きあげるね!」



パタパタと翔室を出ていく翔の後ろ姿を見送る覇王の目が眇められる。
それは獲物を狙う肉食動物の眼だった。

もちろん翔はそれを知らない。






END




覇→翔
アニキと覇王さまが双子設定なパラレル。
GXでパラレルって私的に珍しい。

余所様の企画に提出したものでしたが
企画ページが閉鎖されたので
出戻ってきました。
と言う訳で勿体ないのでUPしてみる。

2012.08.19

 

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