■マフラー(城表)■

■一年十二題
マフラー(城表)
マフラーを貸してあげる











「城之内くん、この後バイトあるって言ってたよね?時間大丈夫なの?」
寄り道したゲームセンターで、遊戯は壁の時計を見て聞いた。
「おっと、やべえ。サンキュー遊戯」
城之内は慌てて向かっていた格闘ゲームの台から立ち上がる。
「遊戯と一緒に居ると時間忘れちまうぜ」
「ボクもだよ」
城之内と話しながら、脱いでいた上着とマフラーを身に付ける。
それでも外に出るとかなり寒かった。
「さむ!」
思わずそう口にする。
「あーホントさみーなー」
城之内もそう言いながら、制服のポケットに両手を突っ込んだ。
「あれ、城之内くんマフラーは?」
遊戯は城之内を見上げて首を傾げる。
コートにマフラー、手袋と、しっかり重装備な遊戯と比べて、城之内はいつでも軽装だ。
本人曰く『子供は風の子』、本田に言わせると『ナントカは風邪引かないってヤツ』らしいが、それでも此処の所はさすがに寒いらしくマフラーを着用していた。
「朝、新聞配達ん時走ったら暑くってさー、店でとって、そのまま忘れてきちまった」
ポリポリと頬を掻きながら城之内が言う。
これから城之内はコンビニのバイトだ。
店内は寒くはないだろうが、その帰りはきっともっと寒いだろう。
遊戯は自分のマフラーをとって、城之内へ差し出した。
「これ、使ってよ城之内くん」
「え、いいよ。お前が寒いだろ、遊戯」
「大丈夫だよ」
遠慮する城之内の首にマフラーを巻きつける。
遊戯は笑った。
「嬉しいな」
「何が?」
不思議そうに城之内が問う。
「ボクの物なんて、城之内くんに貸せるものなんか何も無いと思ってたのに」
上着なんて当然小さすぎて貸すことなんか出来ないのに。
「マフラーなら貸せるんだ、と思ったら嬉しくって」


城之内くんは、ボクの親友は何時だって、ボクに色んなモノをくれるのに。
見えるけど見えないもの。
見えないけれどとても大切なもの。
沢山、貰っているのに、何も返せていない気がしてた。


「ありがとうな、遊戯」
城之内は照れ臭そうに笑った。
マフラーに顔を埋めて幸せそうに呟く。


「すんげーあったかい」

マフラーくらいで、って言われるかもしれない。
でも少しは返せた気がする。
見えるけど見えないもの。

本当に嬉しそうに城之内が笑うので、遊戯も嬉しくなる。



「じゃあ、借りてくな!明日返すから!」
「うん、また明日!バイト頑張ってね!」
角の所で手を振って左右に分かれる。


マフラーが無い分、寒いはずなのに心がほんわりと温かい。






END




マフラーを貸して嬉しい遊戯ちゃん。
ほのぼの



2010.02.28



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capriccio

 

 

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