会いたくて(城表)
7月下旬、夏休みに入った途端、城之内のスケジュールはバイトでギッチリになってしまった。
長期の休みが、稼ぎ時なのはわかる。
わかるけれども、夏休みに入ったら、城之内とあれもしよう、これもしよう、と脳内で計画を立てて楽しみにウキウキしていた遊戯にとっては大変がっかりな出来事だ。
それでも城之内の家庭の事情を考えると、そんなことを言えるはずもない。
一緒に遊びたかったのに、なんて遊戯のただの我儘だ。
とはいえ、やっぱり残念なものは残念なので、遊戯は今日もひょこひょこと城之内バイト先へ顔を出す。
遊べないなら、せめて会うだけでも、なんて。
そんなことを考えながら。
「お、遊戯」
いらっしゃいませ、と大きな声の後、そう言って笑う。
その笑顔は営業スマイルではないから、遊戯は嬉しくなる。
小さく手を振って、アイスのコーナーへ回った。
今週は夕方5時まで此処のコンビニ店員、その後はバーガー屋だ。
城之内の予定はしっかり聞きだしてある。
朝、ジュースを買いに来て、昼、アイスを買う。
我ながら、ストーカーかよ!と突っ込みたい、方向性の間違った健気さではある。
ぴ、とアイスのバーコードを読み込んで城之内が言った。
「105円です」
丁度店内に他に客もいなかったせいだろう、城之内がレジを済ました後、話しかけてきた。
「こんな頻繁に来てて、小遣い足りんのか?遊戯」
「大丈夫、祖父ちゃんの手伝いしてるから」
ストーカー行為を突っ込まれて、遊戯は内心うっと詰まる。
やっぱり仕事先へこんなに足繁く通うなんて迷惑だったろうか。
でも、やっぱり会いたいんだもの。
うにゃうにゃと考える遊戯の心の内を知ってか知らずか、城之内は、ニッと笑って言った。
「まあ、遊戯来てくれてオレも嬉しいけどな」
「ホント?」
遊戯の顔がぱあっと明るくなる。
「おう。こやって暇な時喋れるし、やっぱ一人はサミシーしな」
城之内は楽しそうに笑った。
遊戯も笑う。
それからほんの少しだけ他愛もない話をする。
「遊戯、宿題やってるか?」
「うっ、まだ手つかずだよ」
痛いところを突かれた。
城之内がバイトの間に少しはやっておいた方がいいだろうか。
見せてあげたら喜んでくれるだろうか。
しかし悲しいかな、城之内と遊戯はクラスでも下から一二を争うという頭脳レベルだ。
見せてあげられるほど宿題を進められるとも思えない。
うんうんと唸る遊戯を余所に城之内は言う。
「8月入ったら、バイトも休みあるから、海行ったり、デュエルしたりして遊ぼうな」
「うん!・・・って、宿題の話じゃなかったの」
「それは獏良とか御伽とか本田とか誘ってやろう」
「思いっきり教えて貰う気だね」
だってその方が効率いいだろ、と城之内が悪びれずに笑う。
遊戯も笑った。
城之内が笑うと、遊戯も笑顔になれる。
此れがどうしても会いたくなってしまう、城之内マジックなのだ。
次の客が入っていて、城之内がいらっしゃいませ、と大きな声を出した。
遊戯は会計の済んだアイスを持って出口へ向かう。
お喋りは此れでオシマイだ。
その遊戯の手を城之内がちょっと引っ張った。
「城之内くん?」
小首を傾げる遊戯に城之内はこそりと耳打ちする。
擽ったい。
「明日の祭りは焼きそば屋のバイトあんだけどよ、其処は奢ってやるから来いよな!」
どうやら、遊戯の懐具合を心配してくれたらしい。
勝手にやっていることだから別にいいのに。
そう思いつつも、祭りに誘って貰ったようで嬉しい。
笑顔で頷くと、城之内も笑顔で頷いてくれた。
じゃな、と手を振る城之内に遊戯も小さく手を振る。
帰り道、遊戯の足取りは軽い。
帰ったらアイスを食べながら、宿題を少しでもやっておこうか。
明日の約束を楽しみに。
END
城之内くんの笑顔の魅力
好きすぎて貢いでる遊戯ちゃん、みたいになった(^^ゞ