金色木枯し(城表)
「ちょっと寄り道して行こうぜ」
城之内が指で示した先は、神社があった。
境内はイチョウの木が並び、黄色い葉を舞い踊らせている。
足元も真っ黄色な絨毯になっている。
これは掃除が大変そうだ。
遊戯がそんなことを考えている間、城之内はきょろきょろとあたりを見渡していたが、唐突にしゃがみこんだ。
「あったあった」
城之内拾い上げたモノを遊戯は覗き込む。
「あ、銀杏だ」
落ち葉を楽しむなんてそんなことの為に遊戯を誘ったのではないとわかっていたが。
遊戯は苦笑した。
でもそんな処も結構好きだ。
熱心に拾い出した城之内を遊戯も真似る。
「美味いんだよな」
へえ、と遊戯は感嘆の声を漏らす。
城之内は遊戯よりも色々なことを知っている気がする。
「そうなんだ。茶碗蒸しくらいしか思いつかなかったよ」
「茶封筒に入れて水でちょっこっと濡らして、んでレンジでチンすんだ」
「封筒に入れるの?」
それも遊戯の知らなかった知識だ。
「そ、カラは金槌とかで叩いて割っとくといいぜ」
喋りながらも城之内は銀杏を拾い続ける。
「酒のつまみに丁度いいんだ」
「城之内くん、お酒は二十歳になってからだよ」
遊戯も銀杏を拾いながら軽い調子でたしなめる。
「飲んでねえよ」
少し笑って城之内は言った。
「酒なんか、飲んでねえ」
酒なんか、という言い方に遊戯は少し後悔する。
城之内の様子に怒ったような変化は現れていなかったけれど、もしかしたら地雷を踏んでしまったのかもしれない。
城之内の父親のことだ。
遊戯は城之内の父親とちゃんと会ったことは無い。
玄関の隙間から見えた、靴の裏、それと酒に酔っているらしい乱暴な言葉、其れがすべてだ。
昼間から酒を飲み、生活費は城之内のアルバイト代などで賄っている。
遊戯としては尊敬出来ない相手だ。
けれど、城之内は多分違う。
本当に父親が嫌いだったら、見捨てるなりなんなり手はあると思う。
だけど、そうしないのは。
多分、まだ父親が好きだから。
いつか昔のように優しく頼れる父親に戻ってくれるのではないかと思っているから。
だから遊戯も、城之内が好きな相手を悪く言うつもりはない。
言葉を探して手が動かなくなる遊戯に、城之内は言った。
「でも酒のツマミって美味い物多くねえか?チータラとかするめとかさ」
「あ、うん!ボクもチータラとか結構好きだよ」
遊戯は慌てて同意する。
そういやさ、と城之内は続けた。
「するめとあたりめって同じもんなんだって、こないだリイサちゃんの出てる夜中のドラマでやってたぜ」
「ええ?!そうなの?!」
「スルってさー、金を掏るとか言うのを連想して縁起良くねえからなんだって」
「へええ」
心底感心する遊戯に城之内は笑った。
遊戯も笑う。
そうやって他愛無い話が続く。
さり気ない中に、遊戯が喋れなくなってしまったのを気遣ってくれたのだとわかるから。
乱暴そうに見えるのに、そんな気遣いをしてくれる人だと知っているから。
城之内が好きなのだ、と思う。
END
城之内くんが好きだと自覚する遊戯ちゃん、みたいな