狭雲月(さくもづき) 灰色模様。天使の階段。雨上がりの午後を一緒に。
午前中降っていた雨が上がり、学校から帰る頃には雲が切れてきた。
やっぱり雨よりも晴れていた方が気分がいい。
今日はバイトが無いからゲーセン寄って行こうぜ、と遊戯を誘う。
遊戯は二つ返事で大きく頷いた。
嬉しそうだ、と思うのは気のせいでも自惚れでもないと思う。
ゲーセンへ向かって並んで歩きながら、ふと空を見上げると雲間から光が射していた。
「おお、綺麗だな」
見上げてそう言うと、遊戯も同じように空を見上げて答えた。
「ほんと、綺麗だね」
あそこだけちょっと幻想的、とでもいうのかな。
本当に綺麗だ。
こういうの、なんか呼び名があった気がするけど。
「なんだっけ、ああ言うの」
知ってる筈なのに出て来なくって、あれあれ、と言うと遊戯は少し考えて口を開いた。
「ええと、天国の階段って言うんじゃなかったっけ」
そう、それだ。
オレは宗教なんか全然信じちゃいないし、死んだら其処で終わりだろ、くらいに思っているけど、あの光を通って行けば本当に天国へ行けそうな気がする。
「天国かあ。いいトコなんかな、ちょっと行ってみたいかも」
一度はおいで、とか言う酔っ払いの歌があった気がする。
飯が美味いといいな、などと俗物丸出しなことを考えていたら、急に遊戯が言った。
「駄目だよ!」
ぎゅ、とオレの袖口を掴んで遊戯は続ける。
「天国なんか行っちゃ駄目!」
天国行くなんて、死んじゃうってことじゃない。絶対駄目!
遊戯の必死さにちょっと吃驚する。
「・・・いや、まだ当分行くつもりねえけど」
遊戯はパッと手を離した。
「あっ、そうだよね!ごめんボク、」
遊戯は離した手を後ろに隠して、うろうろと視線を彷徨わせる。
「城之内くんが居なくなっちゃったら、嫌で」
ああ、愛されてるなぁ、なんて。
そんな風に思っても気のせいでも自惚れでもない筈だ。
オレは遊戯の頭をくしゃりと撫でた。
「大丈夫、オレはずっと遊戯の側に居るって」
糞ジジイ早くくたばれ、って言われるくらい超長生きして見せるぜ。
おどけた調子でそう付け加えると、遊戯はやっと笑った。
「早くゲーセン行こうぜ」
笑顔になった遊戯を促して歩きだす。
天国の階段をもう見上げずにゲーセンまで急ぐ。
綺麗な空だけれど、遊戯の笑顔の方がずっと見ていたいから。
END
手を繋いでゲーセン行く。
らぶらぶ。