■雨の匂い(城表)■

城表
梅雨時期に書いたモノ。

 












「城之内くんもコーラでいいでしょ〜?」
「おう」
背後から聞こえた遊戯の声に、オレは遊戯の部屋でテレビゲームをしながら答えた。
勝手知ったる他人の家、という奴だ。
遊戯はオレの横に500mlの小さなペットボトルを2本とポテトチップスの袋を置いて、隣に座った。
「サンキュー」
どうも今はコレについてる人形のついたキャップを集めてるようだ。
コンピューター相手に苦戦を強いられているオレの様子を見ながら、遊戯はポテチの袋を開けた。
「ねぇ、ボクと対戦しようよ」
「コレ終わったらな」
本当は、せっかくじいさんもいないことだし。
オレとしては他のことなぞしたいのだけれど。
でも遊戯の楽しそうな顔を見たらとてもそんなこと言えねぇしな。
遊戯は本当にゲームと名のつくものならたいてい得意だ。
オレも本当のケンカなら負けない自信があるんだけどな。
でも今日こそは負けねぇぜ、遊戯。
「・・くしゅん」
遊戯が小さくくしゃみをしたのでオレは手を止めて遊戯を振り返った。
「どうした?遊戯」
「ん〜・・・平気」
遊戯は鼻を擦りながら答えた。
「城之内くん」
遊戯がテレビ画面を指差したので視線を戻すと丁度オレの使っていた空手使いがコンピューターのキャラにやられたところだった。
「K.O!」の赤い文字が大きく映し出される。
オレは伸びた空手使いを見ながらリセットボタンを押した。
「風邪でもひいたか?」
「大丈夫だよ、ちょっと寒いだけ」
遊戯は空いているコントローラーを取って答えた。
確かに梅雨に入って雨が続いているので少し肌寒いかも知れない。
・・・オレは全然平気だが。
「なんか上に着てこいよ」
「ん〜・・・」
「ほら」
ゲームは逃げないっての。
渋る遊戯にもう一回リセットボタンを押してやる。
これでゲームが立ち上がるまでの時間が出来た。
遊戯はぱっと立ち上がって自分の引出しからカーディガンを持ってきた。
立ち上がった拍子に遊戯の腕がオレの腕に、触れる。
冷たい、感触。
「城之内くんは寒くない?」
「・・・ああ」
タイトル画面が出て、遊戯はカンフー使いを選んだ。
「雨ばっかでやんなるな」
「そうだね」
そんな話をしながら、今日はじいさんいないんだ、なんてもう一度考える。



「でもボク、雨のにおいって好きだよ」


「雨のにおい?」
雨ににおいなんかあるだろうか?
オレは遊戯の顔を見て、それから窓を見上げた。
窓の外は、雨。
雨が木の葉を叩く音が聞こえる。
「においなんかあるか?」
「ん〜・・」
オレの問いに遊戯はちょっと考えて言った。
「雨の降り始めのさ、アスファルトのにおい」
「アスファルト?」
「うん」
オレは馬鹿みたいに遊戯の言うことをいちいち繰り返した。

「なんか、空気がきれいに洗われていくような気がしない?」


たまに。
遊戯はオレが考えても見なかったようなことを言う。
そんなこと思っても見なかった。
昔は・・・多分知っていたことだと思うのに。
遊戯といると驚くことがたくさんある。
遊戯といるといろんなことを思い出すことが出来る。
だからオレは。
ずっと遊戯といたいと思うんだ。

「・・くしゅ」
遊戯がもう一度くしゃみをした。
「なんだ、まだ寒いのか?」
「ん〜大丈夫」
「あっためてやろうか?」
え?と遊戯が聞き返す前にオレは遊戯の腕を取って引き寄せた。
「じょ、城之内くん」
遊戯はオレの腕の中でもがいたけど、それをゆっくり封じてやる。



遊戯の体温が上がるのを唇で確かめる。

 

END




2000.12.12

 

 

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