除夜の鐘が(城表)
大みそかに城之内くんと。
もうやることもないし、寝ちゃおうかなぁと遊戯は思った。
バイトがある者や、実家へ帰る者、親戚が来るので家を抜け出せない者など、仲間内の様々な事情で、初詣は3日の午後集合、ということになっている。
だからもう本当にすることもなかった。
あと少しで今年も終わる。
今頃城之内はバイト中だろうか。
ベッドに転がって遊戯は城之内のことを考えた。
城之内は年末年始はずっとバイトだという。
会いたいな。
城之内の笑顔を思い浮かべただけで、心がほんわり温かくなる。
いつだって元気をくれる人。
こっそりバイト先のコンビニを覗きに行ってみようか。
そんなことを考えていたら、微かな音に気がついた。
気のせいかと思ったが、しばらく経つとまたコツン、と音がする。
窓に小石が当たる音だった。
こんな風に合図してくる相手は一人しかいない。
上着を引っかけて外へ出ると、思ったとおり城之内だった。
「よう、遊戯」
そう言って、片手をあげる。
白い息が流れた。
嬉しそうに笑う城之内に駆け寄って、遊戯は聞いた。
「城之内くん、どうしたの?バイト終わったの?」
「おう、早めに上がらせてくれた」
そう言って又笑う。
「だから、遊戯に会いたくなってきたんだ」
会いたくて。
「ボクも城之内くんに会いたいなって思ってたんだ」
自分の大好きな人が、自分と同じことを思っていてくれたことが嬉しくて、遊戯は笑った。
寒い空の下で白い息を吐きながら二人で笑う。
こんなに寒いのになんだか温かい。
「ちょっと歩こうぜ」
城之内に促されてとりあえず近くの公園へと足を向けた。
遠くから、鐘の音が聞こえだした。
「あ、除夜の鐘」
空を見上げて遊戯が呟く。
「ああ、ホントだ」
頷いて城之内が言った。
「除夜の鐘って煩悩を払うためのものなんだってな」
「そういえばじいちゃんがそんなこと言ってたよ。人間が持ってる108つの煩悩を払って新年を迎えるためのもの・・とかなんとか」
じいちゃんの受け売りだが、あまり真面目に聞いていなかったので語尾が適当になる。
城之内は笑った。
「煩悩なんてそんな簡単に無くなるもんでもないけどな」
「そうかもね」
だからこそ毎年除夜の鐘が必要になるのだろう。
そう思って頷くと、城之内はにやりと笑って、遊戯の耳元で言った。
「遊戯と一緒に居るだけでいろいろ考えちまうもん。・・・ヤラシーコトとか」
「もう、城之内くんてば!」
からかう様なその響きに、遊戯はおどけて返した。
耳が赤いのは城之内の吐息が熱かったせいだ。
煩悩のせいじゃない、と思う。
END
城表
よいお年を!
2008.12.27
■十二ヶ月を巡るお題■
宿花(閉鎖されました)