■スイートスイート(海表)■

海表。
バレンタインの話。遊戯ちゃんが貰ってます(^_^)

 











甘いものを所望する。


 


「ボク、チョコレートが食べたいな」
社長室へやってきた遊戯が突然そんなことを言った。
勝手知ったるなんとやら。
社長室の隅に置かれたソファに陣取り遊戯は海馬が仕事を終わらせるのを待っている。
今日はモクバは先に帰宅したようだ。
いつもなら2人で待っているのだが。
海馬は書類から目を上げて遊戯を見た。
「・・・・」
菓子業界に踊らされるつもりはないが今日はバレンタインではなかったか。
日本ではバレンタイン=チョコレートという定義が当たり前のようになっている。
海馬は海馬コーポレーションの社長の上、容姿も端麗だ。
黙っていれば、何の問題もない。
あくまでも黙っていれば、ではあるが。
こんないい男を世の女子が放っておくわけもなく毎年山のように届くチョコレートに閉口し、とうとうすべての受け取りを拒否してしまった。
もともと甘いものはそれほど好きではない。
くだらないイベントに付き合うつもりもない。

だが。

いらない、つまらないとは言っても、好きな相手が思いを込めてプレゼントをくれるとしたら。
根がヒネクレものの海馬だって本当は嬉しいのだ。
もちろんそんなことは顔には出さないが。
モクバが先に帰宅したことも海馬の期待を大きくしていた。
モクバは割と聡い子供で気の利くほうだ。
遊戯がチョコを渡しやすいように先に帰ったのではないかと考えたのだ。
遊戯は自分の容姿が“男らしい”からはかなり外れていることをたいそう気にしている。
遊戯の性格では『バレンタインは女の子がチョコをあげる日じゃないか』とか言われるのではないかと思っていたのだが。

だが冒頭の遊戯の発言に海馬は思わずむっつりと黙ってしまった。

見るからに不機嫌になった海馬に怯むことなく遊戯は続ける。
「チョコ、頂戴」
にっこり笑って手を差し出される。
本気の遊戯に海馬はため息をつきたくなった。
「・・・遊戯」
持っていた書類を机の上に置く。
「今日が何の日かわかっているのか」
もしかしたら忘れているのかもしれないという願望を胸に聞いてみるが即答で返された。
「バレンタイン」
もちろん知ってるよ、といわんばかりの態度。
海馬は今度こそ本気でため息をついた。
「板チョコでいいからさ」
ソファから立ち上がって海馬のデスクの前に立った遊戯は上目遣いにお願いモードに入る。
この体制に入られてしまっては海馬はサレンダ―するしかない。
それを認めるのは悔しいので決して表には出さないが。


海馬は机の一番上の引出しを開けた。
そこから一枚の板チョコを取り出す。
どこにでも売っている、普通のチョコレート。
「そんなとこにチョコ入れてるの」
遊戯が驚いたように言った。
「食事が取れないときに代わりに食べたりする」
「非常食なんだ」
「まあそんなところだな」
「チョコレートあれば遭難してもしばらくは大丈夫って言うもんね」
会社内で遭難するなんて非常識なことがあるとは思えないが。
遊戯が心から感心しているようなので海馬は黙っていた。
その非常食をチョコを所望する遊戯に差し出したというのに当の遊戯は受け取らない。
「あ〜〜ん」
さっきまで出していた手を引っ込めて口を開ける。
「自分で食べろ」
そう言って机の上にチョコを放り出すと遊戯はむくれた。
「食べさせてよ」

遊戯がこんな風に我侭を言うのも珍しい。

そうして、ふと思う。
遊戯も同じ思いを抱いていたのではないかと。


欲しいものは本当はチョコレートではなくて。
そんな形のあるものではなくて。


そこに込められた思い―――――――



「あ〜〜ん」
海馬は目を閉じて待つ遊戯の口の中に割ったチョコレートを突っ込んでやる。
そのまま口付けて遊戯の口からチョコのおすそ分けをいただいた。



「ホワイトデーは楽しみにしているぞ」

もちろんそう言うのも海馬は忘れなかった。






 

 

 

 

甘いものを所望する。

 

とびきり甘い、自分だけのスィートを。










 

 

END



 



おねだり(^_^)
もちろんホワイトデーには3倍返しを要求されます。

 

2003.02.14

 

 

 

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