■キミの声を待つ夜(海表)■

海表。
いろいろ自信のない遊戯ちゃん。まだデキてないふたり(笑)

 











ボクは自分に自信がないから

 

視線を上げて
まっすぐ前を見る

強さに憧れる。



 

 

 


モクバくんは待ちくたびれたのかボクに寄りかかるようにして寝てしまった。
こうしてるとモクバくんも本当に年相応に見えるなぁって思う。
モクバくんは小学生ながら海馬コーポレーションの副社長だ。
まあボクと会ってる時のモクバくんは何処にでもいる男の子だけど。
ゲームとお兄さんが大好きな、普通の。
前は居間だったけど最近は2階のモクバくんの部屋でよく遊ぶ。
ボクの部屋の倍以上ありそうな部屋はひとりで遊ぶには少し寂しい気がする。
だからボクを呼んでくれるのかも知れない。
執事さんがやってきてそっとモクバくんに毛布をかけた。
モクバくんが目を覚まさないようにじっとしているとボクもだんだん眠くなってきてしまう。
それでなくても海馬くんの家のソファはどれもふかふかで座りごこちがいいのに。
ここのところ毎週のようにこうやって海馬くんの家へ遊びに来てる。
モクバくんとボクは今ではすっかり仲良しだ。
誘ってくれるもんだからつい遊びに来てしまう。
モクバくんと遊ぶのは楽しい。
ゲームも結構強いし。
ゲームの合間に海馬くんの話題になったりもする。
ボクの知らない海馬くんの話。
海馬くんが身近に感じられる。
それを聞けるだけでも嬉しいのに、最近は早く帰ってくると海馬くんもボク達に混ざってくれたりするんだ。
海馬くんは周知のとおりDMだけじゃなくどんなゲームもとっても強いから対戦できるのはすごく嬉しい。
ボクも実は結構負けず嫌いなんだけど海馬くんもかなりな負けず嫌いでもう一回もう一回ってやってるうちにあっという間に時間が過ぎてしまう。
そうやって過ごす時間がボクはものすごく楽しいんだけど。

時々不安になる。

そして思ってしまう。

ボクは此処にいてもいいのかな。

ボクは自分に自信がないからすぐに心配になってしまうんだ。
海馬くんはボクといて楽しいのかな。
ボクなんかと遊んでいて楽しいのかな。
ボクなんか遊びに来て迷惑じゃないのかな。
ボクは楽しいけど海馬くんは本当はつまんないんじゃないのかな・・・。



海馬くんは嫌なことは嫌だとはっきり言う人だけど。
視線を上げて、まっすぐ前を見て、はっきりものを言う強い人。
ボクには無いものを持っている人。

いろいろ考えながらうとうとしていたら夢を見た。




 

夢の中で海馬くんは白いオープンカーに乗っていた。
独特のフォルムの車。
何処までも続く真っ直ぐな道を走っていく。
ブルーアイズ仕様だと言って高らかに笑いながら車を駆る海馬くんはとても楽しそうだった。
だけどボクは心配して叫んでしまった。
戦闘機に乗れるくらいだから車なんて当然乗れるんだろうけど。


海馬くん、そんなにスピード出したら危ないよ。


そうして其処で目が覚めた。
遠くに車のエンジン音が聞こえて夢はそのせいだったのかもと考える。
「兄サマだ!」
目を覚ましたモクバくんは飛び起きて出迎えに走っていってしまった。
ボクも続こうとして、でも出来なかった。
カッコ悪い話だけど足が痺れて。
ずっと同じ体勢でいたからみたいだ。
しばらく動けなくてじっとしていたら少し痺れが抜けてきたからボクはよたよたと廊下に出て階段へ向かった。
廊下にモクバくんの姿はもうない。
ようやく階段までたどり着いて其処から下を見た。
この踊り場から玄関ホールが見渡せる。
海馬くんはモクバくんに迎えられていた。
やっぱり出迎えにはちょっと間に合わなかったみたいだ。
「お帰りなさい、兄サマ!」
「ああ、ただいま」
ボクは未だ痺れた足を庇って手すりにしがみ付きながらそのやり取りを見ていた。


海馬くんの表情がモクバくんだけに見せる顔になるのを。


優しい、お兄さんの顔。
ほんの少し、羨ましい気持ちになる。


「お帰りなさい海馬くん」
頭の上から声をかけるなんて礼儀正しいとはいえないのかもしれないけどまだ足がヘンでとても降りていけそうもない。
兄弟の時間を邪魔しないように頃合を見計らって階段の上から声をかける。

海馬くんがボクの声に顔を上げた。


その時の海馬くんの瞳をなんていえばいいんだろう。


それはたぶん、さっきボクが羨ましがったモクバくんだけのものととてもよく似た色。
優しい蒼。


もちろんそれはほんの一瞬で瞬く間にいつもの仏頂面の下に隠れてしまったのだけれど。


だけど図々しくもボクは此処にいてもいいんだと思ってしまった。
ボクの居場所は海馬くんの中に確かにあるんだと。


「其処で何をしている、遊戯」
「足痺れちゃって動けないんだ」
ボクの答えに海馬くんは心の底から呆れた、といった顔をして言った。
「馬鹿かお前は」
その声が実に海馬くんらしいと思ってボクは笑った。
 



ボクは自分に自信がないから

視線を上げて
真っ直ぐ前を見る

強さに憧れる。



だけど真っ直ぐなものは横からの衝撃には少し弱いんだ。



たとえば直線を猛スピードで走っている車が、急に曲がろうとしたら絶対危ないでしょ?
変なたとえだけどそんな感じ。



ボクは自分に自信がないけど

キミがカーブを曲がる時に
ボクに出来ることがあればいいな

そう、思うから。



いつでも自信満々で
ボクに無いものをいっぱい持ってるキミが
ボクをほんの少しでも
必要としてくれたらいいな

 


そう、思うから。

















END



 



階段の上で社長にお帰りを言う遊戯ちゃんが書きたかっただけなのです(^^ゞ
まだデキていない二人と言うことで。君の自転車の前後くらいかな〜。

 

2003.08.28

 

 

 

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