ゆうかりさんのリクエストで書かせていただいたものです。
「海馬様が小さくてローマの休日みたいなお話」というリクだったはずです・・が(^^ゞ
闇に光る蒼い球体。
それは細かいカケラからなるパズル。
小さなピースを組み合わせて形を作っていく。
もう少しで―
遊戯は大きな門の前でため息をついた。
3回に2回はこの門のところで文字通り"門前払い"にあっている。
ひどい時はインターホンにも出てもらえない。
中に入れてもらえる確率の方が断然低い。
だけど。
当然・・・だよねぇ。
ボクのせい、だもんね。
遊戯はもう一度ため息をついた。
あれ以来・・・DEATH−T以来、遊戯はこうやって時折自宅療養中の海馬瀬人を見舞いに来ているのだ。
遊戯が、というか<もうひとりのボク>がマインドクラッシュを食らわせたのだからやはり容態は気になる。
絶対に"心のパズル"を完成させて戻ってくる、という確信はあったがはたしてそれが今日なのか明日なのか・・・それとももっと先の話なのかまったくわからない。
どちらにせよその間海馬の弟モクバはひとりぼっちなのだ。
海馬兄弟の事情も聞いてしまっただけに遊戯はやはり気になってしまう。
はやく海馬くん元気になってくれるといいなぁ。
遊戯は海馬邸を後にした。
遊戯はゲームセンターの前で足を止めた。
いろいろ考えるとやはり気分が暗くなってきてしまう。
気晴らしに寄って行こうかな。
ゲーセンも最近はひとりで寄ることはあまりなくなった。たいてい城之内と一緒に来る。
でもたまにはいいかもしれない。
遊戯は店内に足を踏み入れた。
中に入るとまずUFOキャッチャーが目に入った。何台か置いてあるその中の景品を一通り見て回る。
「あれ・・・?」
キーホルダーが入ったゲーム機の前で遊戯の足が止まる。
ブルーアイズのキーホルダーが揺れていた。
「へえ・・こんなのあるんだ」
M&Wも最近はかなり人気があるし、グッズが出てもおかしくはない。
とれそうな位置にそれがあるのを確認して遊戯はコインを入れた。
遊戯は対戦型の格ゲーの前に腰を下ろした。
このゲームはわりと好きで城之内と来る時もたいてい一回はやる。
ズボンのポケットに入れたブルーアイズのキーホルダーを落ちないようにもっと奥へつっこんで。
1戦目をなんなくクリアして次に進んだ遊戯は後ろに人が立っているのに気がついた。
後ろ、というか遊戯のナナメ後ろの位置。
ちょっと気になってちらっと視線を向けてみると男の子だった。
小学生くらいだろうか。
もちろんそのくらいの子供でも最近はゲームセンターに来る子は多い。
しかし遊戯が気になったのはその子がなんだか"いいとこのお坊ちゃん"風であったことだった。
およそこういうところに似つかわしくない感じだ。
おとなしそうなキレイな子。
4戦目を片付けたところでもう1回よく見てみる。
どっかで見たような子だなぁ。
どこで会った子だろう。
まったく思い出せない。
近所の子や、遊戯のじいちゃんの店によく来る子でもなさそうだ。
かといってこのゲーセンで会うのは初めてだ。
でも、誰かに似ている。
「やる?」
ボスを軽くやっつけたところで遊戯は後ろで見ていた少年に声をかけた。
少年は声をかけられたことに驚いたように遊戯を見たがすぐ首を横に振った。
「・・・お金ないの?」
答えはなかった。
遊戯が最後までやるのを見ていたくらいだからゲームが好きなのは確かだと思う。
それでも出来ない理由はお金がないか、親に禁止されているか。
お金がなくてゲーセンで遊べない、というのは遊戯にも経験があることだ。
ゲーム好きにはこれはかなり辛い。
親の禁止、というのはよくわからないが育ちが良さそうに見えるし、こんなところに出入りすること自体止められているのかもしれない。
「ね、やってみなよ」
遊戯は席を立った。
遊戯の顔をちょっと見たものの動かない少年の手を取って半ば無理矢理座らせる。
それからゲーム機に小銭を投入する。
簡単なOPが流れて使うキャラを選択する画面になる。
困惑したように見上げてくる少年に遊戯は画面を指差して言った。
「ほら、始まった」
「すごい!強いねキミ!!」
次々と敵を倒していく少年に遊戯は感嘆の声を上げる。
賞賛の声に少年は嬉しそうに笑った。
そこに挑戦者が乱入してきた。
何の苦もなく対戦相手をノックアウトする。
その技は遊戯を魅了した。
すっごい強い!この子。
それにとっても楽しそう。
最初こそかなり強引に座らせたせいか戸惑っているようだったがいざゲームを始めてみるとそんなことなどどこかに行ってしまったようだ。
その様子に遊戯も楽しくなってしまう。
「なんだこんなチビがやってるのか」
突然かけられた声に驚いてそちらを見ると、体の大きな学生だった。
同じ高校生とは思えないほど遊戯とは体格差がある。
今この子にやられた対戦相手らしい。
「ガキの癖に」
そいつは男の子の腕を掴んでイスから引きずり落とそうとした。
前にもこんなことがあった。
遊戯がやっていて、因縁をつけられて、パズルを盗られてしまって―
城之内くんが取り返してくれたけど、そのあとモクバくんが迎えに来て、そしてDEATH−Tが始まった・・・。
「やめろよ!」
遊戯はその相手の腕に飛びついてそれを阻止しようとする。
しかし体の大きさがあまりにも違いすぎた。
遊戯は学生が腕を振り回したおかげで後ろゲームのイスを倒して床に尻餅をついた。
かなりの勢いだったので派手な音がした。
何事かと店員が飛んでくる。
店員を見て学生が小さく舌打ちしたのと
痛そうに顔をしかめた遊戯を見て男の子の表情が変わったのと
ほぼ同時。
次の瞬間男の子に思いっきり臑を蹴られた学生は、たまらず膝を折った。
「このガキが!」
今までおとなしそうだった少年の豹変振りにぽかんと口を開けていた遊戯は相手が激昂するのを見て慌てて男の子の手を取って走り出した。
「大丈夫?」
かなり走って追っ手を撒いたところで遊戯はようやく男の子の手を離した。
男の子は息を弾ませながらもこくんと頷いた。
頷いてはみたが逃げ出したことに対しては少々不満そうだ。
遊戯は小さく笑った。
さっきの変貌ぶりでこの子が誰に似ているのか思い当たったのだ。
攻撃する時には容赦しない、それは―
遊戯は男の子の額の汗を拭いてやろうとズボンのポケットからハンカチを取り出した。
きれいに洗濯されたそれと一緒にさっき取ったキーホルダーが路上に落ちる。
「・・・ブルーアイズ」
男の子が呟いた。
遊戯は驚いて男の子を見た。
今まで一言も喋らなかったからだ。
ブルーアイズ、好きなんだこの子。
「M&W、知ってるんだ?好きなの?」
遊戯はキーホルダーを拾いながら言った。
少年は首を縦に振った。
「じゃあコレあげるよ」
男の子の手を取ってその上にブルーアイズを乗せる。
男の子は自分の手のひらの上のキーホルダーと遊戯を交互に見た。
「ホントは病気の友達のお見舞いに持っていこうと思ってたんだけどさ。・・彼もブルーアイズが好きなんだ」
少年はブルーアイズを遊戯の方に返そうとした。
「あ、ごめん。いいんだよ。それはあげるよ。キミに持っていてもらいたいんだ」
キミと彼はなんとなく似てるから。
「・・・さっき、友達って言ったけどホントは違うんだ。ボクが勝手に友達になりたいって思ってるだけで」
男の子はおとなしく遊戯の話を聞いている。
「すごく強いんだよ。ゲームしてるときは生き生きしてるってゆーか・・・。多分ボクと同じでゲーム大好きなんだと思う。だから」
遊戯はそこで一旦言葉を切った。
「だからまた一緒にゲーム出来たらいいなあと思ってるんだ」
それは遊戯の願い。
「キミもゲーム好きでしょ?」
男の子が頷くのを確認してから続ける。
「だからキミとも仲良くなりたいな」
キミと仲良くなれたら海馬くんとも仲良くなれるような気がするんだ。
遊戯は心の中で呟いた。
「ボク、武藤遊戯。キミは?」
「遊戯、なにやってんだ?そんなとこで」
聞きなれた声に振り返ると城之内だった。
「城之内くん」
「今日はお前、なんか用があるって言ってたじゃねーか」
「うん・・・」
城之内は遊戯の親友で、とてもいい奴ではあるのだが海馬を毛嫌いしているので今日見舞いに行くとは言わなかったのだ。
「それはもういいんだけど」
答えながら男の子の方を見る。
「あれ?」
「なんだ?」
城之内が後ろから覗き込んできた。
「・・・誰か、いたのか?」
「・・・うん。帰っちゃったのかなぁ」
「誰だよ?」
「・・・名前聞きそこなっちゃったけど・・海馬くんに似た男の子」
「海馬〜ぁ?」
案の定、城之内はとても嫌そうな声を出した。
「すっごい強いんだよ」
そういうとこも似てた、と遊戯が言うと城之内はさらに不機嫌な声色になった。
「まあゲームの腕は認めてやるけどよ、性格が悪すぎだぞありゃ!」
「・・でもボク、海馬くんと正々堂々と勝負してみたいな」
「あのな〜遊戯・・まったくお前は人がいいってゆーかなんてゆーか・・」
尚もぶつぶつと言っていた城之内だったが、見た目よりはるかに頑固な親友の性格を知っているのでとうとうあきらめた。
それでも最後に遊戯に釘をさしておくのは忘れない。
「遊戯がなんと言おうとオレはあんな奴信用しねぇぜ」
遊戯はちょっと困ったように笑って見せた。
「あの子、また会えるかな・・?」
遊戯は新しい願いを口に出してみた。
それは可能な未来のように思えた。
近いうちに、きっと。
ペガサスと海馬コーポレーション。
王国への招待。
すでに歯車は、動き出している。
闇に光る蒼い球体。
手の上の青い目の龍は形を変えて、パズルのピースとなる。
かちり。
それは僅かな音を立てて球体の一部となった。
小さなピースを組み合わせて形を作っていく。
もう少しで―
END
昔ゆうかりさんのリクエストで書かせていただいたものです。タイトルをつけてくださったのもゆうかりさんです。
「海馬様が小さくてローマの休日みたいなお話」というリクだったはずですが
其処にカイオモ的に外せない「お見舞いネタ」を組み込んだ結果
非ィ科学的ふぁんたじぃになりました(^^ゞ
青い球体のパズルっちゅーのはマインドクラッシュ受けた社長が作ってたヤツです。
今見るとすごくアレで加筆修正したい気持ちでいっぱいですが。あえて恥をさらしてみました(笑)
2003.10.26