■流れ星(海表)■

海表。
社長と仲良くなりたい遊戯ちゃん。
まだまだお付き合い前。















その日遊戯は帰ろうとしたところを担任の先生につかまった。
城之内と杏子は今日はバイトで終礼のチャイムとともにダッシュで教室を出て行った。
本田は犬の世話だの、甥っ子の世話だので結構忙しいらしくたいていはやく帰ってしまう。
獏良はマイペース。
今日はモンスターワールドのシナリオを書きたいとか言って帰っていった。
つまり、うっかり教室に残っていた遊戯が貧乏くじをひいたわけである。
「プリントを届けて欲しいのよ〜」
化粧の濃い、遊戯の担任は言った。
「他にも特別授業のこととかあるし」
う〜ん。
彼女の言っていることは、わかる。
学校を休んだ生徒にプリントだの、宿題だの近所に住んでいる子が届ける。
良くある話だ。
しかし・・・。
なんで自分なんだろうか。
よくわからない。
家なんて・・・近くないし。
「だって武藤君、仲がいいじゃない」
「ええっ?」
担任の口から出た意外な言葉に遊戯は心底驚いた。
・・・仲がいいように見えるのだろうか?
う〜ん・・・。
遊戯はもう一度うなった。
城之内が聞いたらなんて言うだろう。
しかし。
「ね、武藤君。お願い!」
先生に限らず、こうお願いされてしまっては城之内曰く“馬鹿みたいにお人よし”な遊戯に断るすべは残されていないのだった。



そして遊戯は山ほど渡されたプリントなどを抱えて学校を休んでいるクラスメイトの家へ向かうハメになった。
海馬瀬人の家に。



だいたいさ。
遊戯は渡された紙の束を繰りながら、思う。
進路調査なんてプリント、海馬君にはいらないじゃないか。
ほんとにこれこそ無駄なものだと思う。
よくわからないけどエコロジーに反してるんじゃないだろうか。
遊戯自身はペットボトルを捨てる時に分別する程度のエセエコロジストのくせに、そんなことを考える。
進路調査っていうのは、高校を卒業してそのあとどうするかってことで。
海馬瀬人には関係のない話だ。
だいたいもう働いてるんだから。
海馬コーポレーション、社長。
もうすでにりっぱな肩書きを持っている。
社長業というものは忙しいらしく、だから学校にもあまりこない。
働いているから学校に出てこない人物に進路調査のプリントを届けるなんて、まったくもって本末転倒というべきではないだろうか。
ばさばさっ。
「わっ!」
歩きながら抱えたプリント達を見ていたせいで、遊戯は紙をばらまいてしまった。
慌てて拾い集めた遊戯の手がふと、止まった。
それは図書室からのお知らせだった。
“返却期日が過ぎています。”
そんなことが書いてあった。
つまり、借りた本を返せ、ってことらしい。
海馬君は何を借りたんだろう。
遊戯は興味を持った。
会社の社長で、あんな大きな家に住んでいて。
なんでも持っていそうなのに、学校の図書室でいったい何を借りて読んだんだろう。
興味がわいて本のタイトルを見る。
それは。
星座の本だった。
意外な感じがした。
海馬君が星に興味があるなんて。
ゲーム以外のことなんて眼中にないと思っていた。
そういえば。
遊戯は考えた。
海馬君のこと、なんにも知らない。
養子だって話は前に聞いたことがある。
だけど、その程度だ。
星の本を借りた海馬を意外に思うほど、遊戯は彼のことを知っているわけではないのだ。
何も知らないのに、他人には仲が良さそうに見えるなんて。
なんだかおかしくなって遊戯はちょっと笑った。
忘れていた。
城之内くんや、杏子や・・・みんながいてくれたから。
海馬君と友達になりたい、と思っていたことを。



運良く海馬は家にいた。
いた、とは言ってもたまたま家で仕事をしていたというだけのようだった。
あいかわらず親の敵でも見るように遊戯のことを睨んだが、プリントの束をわたすと『礼は言っておく』と言った。
なんだか海馬君らしい。
自分の知っている範囲内の話だが。
遊戯の笑みに海馬はますます不機嫌になったが何も言わなかった。
「海馬君、本もし良かったらボク返しとくよ?」
「余計な世話だ」
即座に却下される。
仲がいいという状態にはほど遠い。
やれやれ。
遊戯は軽くため息をついた。
帰り際、ふと思いついて聞いてみる。
「海馬君、星が好きなの?」
また怒り出すのかと思ったが海馬の口から出た言葉は違うものだった。
「・・・モクバだ」
「え?」
「もう用はすんだろう。さっさと帰れ!」
しかし聞き直すとやっぱり怒鳴られた。
でも、モクバって言った。
モクバ君のためだったんだ。
詳しいことはよくわからないけど、どうもそういうことらしい。
これは、知ってる。
モクバ君のこと大事にする海馬君は知ってるよ。
遊戯は嬉しくなった。

なんにも知らないわけじゃない。



「じゃ、明日学校でね!」
海馬は返事をしなかった。
それでも遊戯は満足そうに家路を急ぐ。

思い出した願いとともに。

 

 



END

 



遊戯ちゃんが海馬くんとデュエルしたいってずっと言っていたから
其処から私の海表道は始まったワケです(^_^)
タイトルはスピッツ。

 

2001.01.12

 

 

 

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