寒い冬に暖かい部屋でアイスを食べる贅沢。
最高の贅沢を、キミと。
「見て見て海馬くん、雪だよ!」
ひらひらと舞ってきた雪を見て遊戯がはしゃぐ。
寒いと思っていたがとうとう降ってきた。
天気予報は当たったわけだ。
雪などさして珍しいものでもない、と海馬は思う。
すでに働いている海馬にはそれはただ邪魔なものでしかない。
だが嬉しそうに笑う遊戯に、海馬の口元にも笑みが浮かぶ。
「ああそうだな」
そう返してやると遊戯はさらに笑顔になった。
待ち合わせ場所は小さなケーキ屋だった。
店内で食べることも可能な其処は以前モクバが遊戯と一緒に行ったと言っていた店。
美味しかったと二人で口を揃えて言っていたのが印象的だった。
得意先からの帰り道丁度その前を通るので其処を指定した。
これだけ寒いのだから当然中に入っていると思った。
中で待っていていいと、そう言ったのに海馬がその店に到着した時軒先で遊戯は空を見上げていた。
声をかけるよりも先に海馬に気がついた遊戯が楽しげに声を上げる。
「見て見て海馬くん、雪だよ!」
「ねえ時間があるなら少し寄り道していかない?」
海馬の腕をとり遊戯が指差す先に小さな公園があった。
「海馬くんと雪を見たいな」
そんな風に言われたら海馬に断る術はない。
さほど広くはない公園内を二人で歩く。
ゆっくり。
遊戯は相変わらず空を見上げている。
「積もるかなぁ」
その声は隣を歩く海馬へ話し掛けるというよりは、独り言のようだった。
少し、面白くない。
「あっ」
その時上ばかり見ていて足元に注意していなかった遊戯が何かに躓いた。
とっさに手を出して支える。
「ありがとう海馬くん」
そう言って笑う遊戯をそのまま背中から抱きしめた。
「え、何?」
自分に回された海馬の腕に戸惑うように遊戯が見上げてくる。
海馬はさらに腕に力を入れて言った。
「雪に見惚れるのもいいが」
「二人きりのときはオレを見ろ、遊戯」
「海馬くんって」
肩越しに振り返った頬は赤い。
「たまにすごいこと言うよね」
「すごいことなど言ったつもりはない」
「すごいよ」
「そういうの、『コロシ文句』って言うんだよ」
腕の中で、頬を染めて。
ちょっと口を尖らせてそんなことを言う。
その方がよほど『コロシ文句』ではないだろうか。
たった今『コロシ文句』を吐いた唇に自分のそれを軽くあわせてやる。
「・・な、何考えてるのさ、こんなところでっ」
一瞬の硬直の後、遊戯は赤い顔をさらに赤くして腕の中から逃れようと暴れた。
もちろん海馬は逃がさない。
さらに力を込めて自分の腕の中に封印する。
「お前のことに決まっているだろう」
「またそういうこと言う」
むう、と口を尖らせた遊戯の視線がふと逸れた。
「あ、あんなところに新しいコンビニ出来てる」
遊戯の興味がそちらに向かってしまったことにほんの少し不満を覚えながら海馬も指差す先を見た。
「あそこで売ってるバニラアイス、美味しいんだよ」
「この寒いのにアイスか」
遊戯が甘いものが好きなのは知っているが雪の降る中アイスの話題が出てくるとは思わなかった海馬がそう返す。
「寒いときにさ」
遊戯は言った。
「暖かい部屋でアイス食べるのってすっごく贅沢じゃない?」
「そうか?」
「しあわせ〜って気分になる」
そう言って笑った遊戯が本当に幸せそうに見えたので海馬は訊ねた。
その笑顔を、もっと見たくて。
「では持ち帰って食べるか?」
「え、と」
遊戯はまた顔を赤くして少し言い淀んだ。
「・・今、暖かいから。・・此処で」
自分の腕の中が暖かい、から。
「シアワセッテ気分ニナル」
これが『コロシ文句』でなくて何だというのだろう。
「海馬くんも食べてみる?」
遊戯がそう訊いてくるのに海馬は首を振った。
そうしてさらに抱き寄せる。
「オレはいい」
十分贅沢をしているから。
十分、幸せだから。
「・・後でお前を戴くからな」
「またそういうこと言う!」
海馬がそう付け加えてやるとまた遊戯はじたばたと暴れた。
だけど逃がしてやる気は海馬にはもちろん、ない。
腕の中に大切な者がいる。
これ以上の贅沢はないだろう。
最高の贅沢を、お前と。
END
どちらも素でコロシ文句を吐く。
遊戯ちゃんは天然、社長は本気(笑)
寒くてもキミがいればあったかい、と。
まあようするにバカップルだですね!(笑)
暖かい部屋でアイスを食べるのってすっごい贅沢だと思うのですがどうでしょう(^^ゞ
2004.03.07