本年もどうぞ宜しくお願い致します (海表)
「止めろ」
屋敷に着く、ホンの数百メートルほど手前で海馬は運転手にそう命じた。
「此処から歩いて帰る」
一方的に告げるとさっさと車から降りてしまう。
運転手の方は海馬のそんな態度にも慣れたもので、畏まりました、と返答して慌てず車を発進させた。
大晦日の夜。
今年も最後の最後までいろいろと忙しかったが、新年はどうやらまとまった休みが取れそうだった。
吐く息は白く、闇に溶けていく。
それをしばらく眺めていた海馬はやがて自宅へ向かって歩き出した。
門の手前で特徴のある頭がウロウロしているのが見える。
「海馬くん・・・」
遊戯に気づくことも無く、邸内へ消えた車をどう思っているのだろう。
泣きそうな声だ、と思った。
別に意地悪をしたかったわけではなかったのだが。
遊戯の行動を読んで、先手を打ったつもりだった。
いつもいつも、勝てない相手に。
「何をしている」
「ひゃあ!」
後ろから声をかけると文字通り遊戯は飛び上がった。
「か、海馬くん?!」
それから忙しく海馬と邸内を交互に見る。
「あれ、今、車・・・あれっ?」
「ふん」
遊戯の慌てぶりを海馬は鼻で笑った。
「お前の行動なぞオレにはお見通しだ」
どうせ一番に新年の挨拶をしたいとか、そんなところだろう。
腕を組み、胸を反らしてそう言ってやる。
遊戯は驚いたように目を見張って、それから笑った。
幸せそう、という表現がぴったりの微笑み。
「何を笑っている」
「え、だって嬉しくて」
遊戯は笑顔のまま言った。
「海馬くん、興味ないヤツのことなんか覚えてないでしょ」
海馬は答えに詰まった。
「だから、嬉しいなって」
えへへ、と頬を染めて照れたように笑う遊戯から海馬は視線を逸らした。
そうだ、最初は興味などなかった。
それがいつの間にか視界に入るようになり
そして
思考も
占拠された。
「あけましておめでとう」
せめて新年の挨拶くらいは、出し抜いてやるつもりで遊戯よりも先に言ってやる。
遊戯は益々嬉しそうに笑って新年の挨拶を返すと、さらに大仰とも取れるほど丁寧に頭を下げた。
「本年もどうぞ宜しくお願い致します」
END
一年の計は元旦にありと言いますが
今年もなんだか遊戯ちゃんに敵わない気配な社長でございます(^^ゞ
お題は此方から
■十二ヶ月を巡るお題■
宿花(閉鎖されました)
2006.01.15