■アイスバー(海表)■

■十二ヶ月を巡るお題■
アイスバー(海表)

 














 

 



約束の時間通りに遊戯の家の玄関先に黒い車が横付けされた。
どたばたと階段を駆け下りる音がして遊戯が飛び出してくる。
手にはラッピングされた箱。
多分モクバへのプレゼントだろう。
開けられた扉から海馬の隣へ乗り込もうとした遊戯は、突然「あ!」と叫んだ。
「ゴメン海馬くんちょっと待っててくれる?」
そう言ってもう一度家の中へ戻る。
忘れ物を思い出したようだ。
しばらくして戻ってきた遊戯の手には葉書ほどの大きさの小さな薄い袋が握られていた。
「カードか」
大きさから見てモクバに渡すためのバースディカードだと思った。
今日はモクバの誕生会と七夕祭りを兼ねて遊戯を家に招待したのだ。


今頃モクバは願い事を書いた短冊をぶら下げて、笹を飾り付けているだろう。


遊戯は海馬の言葉に首を振った。
「ううん、違うよ。」
そう言って袋の中から棒を出して見せた。
アイスの棒。
「アタリの棒だよ。モクバくんにあげるんだ」


アイスの棒にアタリの表記があれば、もう一本貰える。
そんなものを食べたのはいつだったろう。


昔、施設に居た頃、アイスのアタリを弟が欲しがったことがあった。
施設ではそう自由に買い食いが出来るはずもなく、与えられた少ないお菓子を食べるしかない。
我侭など言えなかった。
一つしか無いものは弟に優先して渡すようにしていた。
弟が喜ぶならそれでよかった。
それで自分も嬉しいと思えたから。
だからアタリを欲しがる弟にそれをあげられたらいいと思った。
七夕の願い事にするには陳腐な願いではあったけれど、子供らしくていいかと思って短冊に書いてみた。
そしてある日、念願のアタリが出た。
弟はそれを自分に渡して言った。

いつも貰ってばかりだから。
兄サマにあげられるものが欲しかった。

そう言って笑う。

いつも貰っていたのは自分の方なのに。



「懐かしい?」
アタリの棒に見入っている海馬に遊戯が言った。
優しく笑う。
「そうだな」
この棒に関する話を、モクバから聞いているのだろう。
そしてわざわざ用意してくれたのだろう。

モクバと
自分のために。

海馬が頷くと遊戯はまた笑った。
いつだってその笑顔から貰ってばかりだ。

自分も少しは返せてたらいい、と七夕に願った。


 


 

 

END







社長は借りを作って悔しい、くらい思っていそう(笑)




お題は此方から
■十二ヶ月を巡るお題■
宿花(閉鎖されました)

 

2007.07.16

 

 

 

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