■中途半端に暑い時期(海表)■

■十二ヶ月を巡るお題■
中途半端に暑い時期(海表)

 














 

 

「あーやっぱ未だ暑いや。冷房の入ってるとこへ来るとほっとするー」
遊戯は海馬コーポレーションの扉を潜って息をついた。
学校帰りに新作ゲームのモニターとして社の方へ来て欲しいと頼まれたのだ。
迎えの車は申し訳ないけれど丁重に断った。
校舎前に横付けされた黒塗り高級車に乗り込むのは庶民の遊戯にはどうしても抵抗があるからだ。
他の生徒たちの視線も痛いし。
しかしもう9月だというのにまだまだ暑い日が続いていて、此処に来るまでに大汗をかいてしまった。
ありがたく迎えに来てもらうべきだったかもしれない。
海馬コーポレーションの受付ロビーは大変涼しかった。
「あー涼しいー・・でも思ったより温度は高い、カンジ・・?」
遊戯は小首を傾げる。
もっと冷房がガンガンに効いているかと思ったが、そうでもないようだ。
だが、涼しいと感じる。
「当たり前だ」
小首を傾げる遊戯の頭上から声が降ってきた。
「一度下げるのにどれだけ電力を使うと思っている」
「海馬くん」
遊戯は自分を呼び出した張本人を見上げて名を呼んだ。
「冷房の設定温度上げてあるの?エコ?」
「それもある。節電は地球温暖化防止対策にもなるしな」
「へえ・・でも涼しいよね」
「あちこちに送風機を設置してある。風があると体感温度は低くなるからな」
「体感温度かー」
置かれた観葉植物の影などに送風口があるようだ。
そういえば電力会社のCMでもクーラーの設定温度を上げて、扇風機と併用して使うといい、と言っていた気がする。
海馬についてロビーを抜け、エレベーターへ向かう。
吹き抜けに噴水が出来ていた。
「噴水?」
「バーチャルだ」
こんなもの何時作ったのか、と驚く遊戯に海馬はアッサリと答える。
なるほどそれは海馬コーポレーションの専門分野だ。
「へえー。こういうのあるとホント涼しく感じるよね」
「こういうものが日本人は好きだからな。見た目の涼しさも重要だ。まあ要するに気の持ちよう、思い込みなんだがな」
エレベーターに先に乗り込んだ海馬が、遊戯が乗り込むのを待って、最上階のボタンを押す。
遊戯は言った。
「心頭滅却すれば火もまた涼し、ってことだね」
「ちょっと違うが・・まあ近いか」
密室で海馬は遊戯の手を取る。
長い指にちょっと見惚れた。
「どうだ?」
「どうって言われても・・いつもと同じ、だと思うけど」
海馬の意図が読めず遊戯は小首を傾げる。
海馬の手は遊戯よりもずっと大きくて、少し冷たい。
「ではこれならどうだ?」
海馬は掴んだ遊戯の手を引いた。
バランスを崩して遊戯は海馬の腕の中に抱き込まれる形になる。
「ちょ・・海馬くん!」
慌てて離れようとするが、勿論海馬は其れを許さない。
「さっきよりも掌の温度が上がったのがわかるか・・?」
遊戯の頬を両手で包むようにして、囁くように海馬が言った。
「わ、わかんないよ!」
「そうか?」
海馬は少し残念そうに言う。
「お前に触れると確かに熱くなったと感じるから、お前にもわかるかと思ったんだが。やはりオレの思い込みと言うヤツか」
「違うよ」
にやりと笑う海馬に、からかわれているのだと知りつつも、遊戯は言った。
顔が赤くなっているのが自分でわかる。


「ボクも熱くなっちゃってるからわかんないんだよっ」


遊戯は海馬くんの意地悪!と赤い顔のまま付け加えた。


 


END






両思いバカップル。
エレベータの中で誰も見てないからってなんかいちゃいちゃ。
仕事しろよ、社長(笑)





お題は此方から
■十二ヶ月を巡るお題■
宿花(閉鎖されました)

 

2008.09.14

 

 

 

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