そろそろ焼き芋が食べたくなるよね(海表)
遊戯は自宅への道のりをとぼとぼと辿っていた。
海馬の家へ行った帰り道だ。
学生の自分は休みでも、社長の海馬は当然忙しい。
それはわかっているつもりだったけれど。
出迎えてくれたモクバもこれから仕事なのだと言っていた。
モクバも副社長として忙しいらしい。
小学生なのに本当に偉い、と遊戯はいつも感心する。
海馬への誕生日プレゼントだけ渡してくれるように言付て、海馬邸を後にした。
海馬の、誕生日。
本当は自分の手でプレゼントを渡したかった。
おめでとうと、伝えたかった。
しかし忙しいモクバに、兄サマはいつ帰ってくるかわからない、今日は帰ってこれないかもしれない、と済まなそうに告げられては、それ以上困らせるわけにもいかない。
一応メールだけはしてみたが、やはり忙しいらしく返事はなかった。
「海馬くん、プレゼント気に入ってくれるといいなぁ」
落ち込みたがる気持ちを奮い立たせるために声に出して言ってみる。
遊戯の小遣いの範囲内で買えるものだから豪華なものではないけれど、その分カードは心を込めて作ったので、気に入ってくれたら嬉しいと思う。
いろいろ考えているうちに、やっぱり会いたかったなぁという方向へ気持ちが傾いていく。
遊戯はため息をついた。
こんなんじゃ駄目だ。
其処へ独特のイントネーションでもってスピーカーの音が響いた。
『♪石焼きイモ〜おイモ〜』
「あ、おイモ屋さん!」
遊戯は目を輝かせた。
こういう時にはまずお腹を満たしてしまうに限る。
お腹がいっぱいだと、人間結構簡単に幸せな気持ちになれるものだ。
「待ってー」
遊戯は軽トラを追いかけて走りだした。
不景気の影響か、石焼きイモも大分高くなったと感じるが、とりあえず1本あれば十分だ。
首尾よく焼き芋をゲットした遊戯は戦利品を持って途中の公園に寄った。
家で食べるのもいいけれど、買い食いの楽しさは止められない。
ベンチに腰を下ろして、芋を包んだ袋を開けようとしたところで、公園の外の道に見知った黒い車が止まるのが見えた。
「えっ?!」
慌てる遊戯の前に車から降りた海馬が立つ。
「遊戯」
海馬が、遊戯を呼んだ。
今日は聞けないと思っていた、その声。
思いがけず聞くことができたその声に、何を言っていいのかわからなくなってしまう。
「海馬くん、えっ、モクバくんが今日は戻らないかもって、仕事終わったの?あ、プレゼントはモクバくんに預かって貰って、えっと」
「・・・落ち着け」
あわあわする遊戯に海馬は言った。
その声に、パニくっていた遊戯は、絶対に言わなければいけない一言を思い出す。
ゆっくり深呼吸をして、ちゃんと海馬の目を見て。
遊戯は告げた。
「お誕生日おめでとう、海馬くん」
「ああ」
そう答える海馬の表情が柔らかく笑んだ気がして、遊戯は嬉しくなる。
今日は忙しくて戻ってこれないという話だったのに。
会えないと思っていたのに。
もしかして海馬も会いたいと思ってくれたのだろうか。
そのために早く帰ってきてくれたのだろうか。
そんな風に考えるだけで、嬉しくて笑ってしまう。
さっきまで落ち込んでいたのが嘘のようだ。
海馬の視線がふと遊戯の手元に落ちたので、遊戯も釣られて自分の手を見た。
すっかり忘れていた石焼きイモの存在を思い出す。
「海馬くんお腹空いてない?おイモ、半分こしない?」
「お前が食べたくて買ったのだろう?」
「うん、でもボク、半分こって好きなんだよね」
大好きな人と、半分こ。
一人で食べるよりずっと美味しい。
お腹も気持ちもいっぱいになって、幸せな気持ちになれる。
手間取る遊戯から芋を受け取ると、海馬は綺麗に半分に割ってくれた。
心持ち大きめの方を遊戯へ返してくれる。
誕生日なんだから遠慮しないでいいのに。
そう思ったけれど、海馬の仕草があまりに自然だったので、遊戯はまた嬉しくなって、礼を言って受け取った。
END
社長お誕生日おめでとう!!
お誕生日話とは遠い話になってしまいましたが
やっぱ好きな人の笑顔が見れたら
社長だって嬉しいよねっってことで(^^ゞ
お題は此方から
■十二ヶ月を巡るお題■
宿花(閉鎖されました)
2008.10.25