■冷たい風(海表)■

■十二ヶ月を巡るお題■
冷たい風(海表)

 














 

む、カッコいい。
遊戯は唇を尖らせた。
学校からの帰り道、ほんの少し時間があるからと言って会いに来てくれた海馬は、当然会社から、だ。
スーツの上にコート、首にマフラーをかけた海馬は、長身なのもあって文句なしにカッコ良い。
比べて自分はダッフルコートにミトンの手袋に、マフラー。
もこもこしてまるで着ぐるみの様だ。
恰好良い、という形容詞からはあまりに遠い。
海馬が言った。
「何を面白い顔をしている」
考えていることが顔に出ていたらしい。
遊戯は正直に答えた。
「えー海馬くんカッコ良いなぁと思って。ずるいよ」
「不満そうだな」
遊戯の答えに、海馬の方こそが不満そうに言う。
「不満っていうか・・ボクだってカッコ良いオトコを目指してるんだよ一応」
別に海馬がカッコ良いことが不満なのではない。
海馬だけがカッコ良いことがちょっと不満なだけだ。
自分だって海馬と居て見劣りがしないようなカッコ良いオトコになりたい。
海馬は遊戯の姿を見て言った。
「似合っているぞ」
「・・・そうなんだよねぇ」
遊戯ははあ、と溜息をついた。
自分でもこういう服装の方が似合うという自覚はあるのだ。
海馬の様な大人っぽい恰好をすると、服に着られてしまって、何処の七五三だよ、という状態になる。
ちょっと、とほほ、という気分になって、遊戯は話題を変えた。
「それにしても海馬くん、あんまり沢山着てないみたいだけど、寒くないの?」
もう11月だし、風は冷たい。
遊戯は結構着込んでいる。
それがもこもこ着ぐるみの原因にもなっているのだが。
「別に寒くはないが」
「そのコート、イイ奴なの?」
高級品だから寒くないとか、そういうやつだろうか。
庶民ゆえの好奇心に駆られてそう聞くと、海馬は言った。
「着てみるか?」
「え、」
遊戯の返答を待たず、海馬はコートを脱いだ。
それを遊戯の肩にかける。



暖かかった。



ダッフルを着たままなのもあるだろうけれど、今の今まで海馬が着ていたコートだ。
海馬の温もりの残るコート。
其処の所を意識すると、顔が熱くなってくるのがわかる。
「どうした、暑いのか?」
何もかもお見通しの様な、少し意地悪な笑みを浮かべて海馬が問う。
「う、うん。ちょっと。あったかいね『海馬くんのコート』」
自分ばかりが意識しているのも癪なので、余裕のある振りをして『海馬くんの』の所を強調してにこりと笑ってみる。
けれど海馬涼しい顔で、そうか、と言ってまた笑った。



それがやっぱりカッコよいのが少し不満だ。



 


END






余裕綽々な社長が不満なのでした☆
遊戯ちゃんのコートはダッフルが良いなぁと思って書いたっす








お題は此方から
■十二ヶ月を巡るお題■
宿花(閉鎖されました)

 

2009.11.29

 

 

 

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