■雨の音、二人きり(海表)■

■一年十二題
雨の音、二人きり(海表)
海→←表みたいな。



 














 

昼過ぎから雨が降り出して、帰る頃には土砂降りになった。
6月といえば梅雨時期、雨は珍しい事ではないけれど、朝降っていなかったせいか油断して居た生徒も少なくない。
「あ、鞄に入ってると思ったのに入ってなかったや」
特に困った様子もなくのんびりと獏良が言った。
「ボクあるよ、獏良くん。一緒に帰ろう」
そう言って鞄から引っ張り出した折り畳み傘を、誰かの腕が掴んだ。
海馬だ。
遊戯の手から傘を取り上げて、獏良に投げる。
「貸してやる」
「ええ?!」
ちょっと海馬くんボクの傘なんですけどっ?!と抗議する間も無く、海馬は言った。
「送ってやる、遊戯」
「ええ?」
唐突な言葉に慌てる遊戯を尻目に、マイペースを地で行く獏良の声がかかる。
「じゃあ借りてくね遊戯くん。明日返すから」
「あ、うん」
そんな会話を交わしている間に、送ってやると宣言した海馬はすたすたと教室から出て行こうとしている。
「明日楽しみにしててね。腕に縒りをかけて御馳走作っておくからね」
「うん、ありがとう!じゃあまた明日!」
獏良に挨拶すると、遊戯は急いで海馬の後を追った。
また明日。
明日は土曜で、学校は休みである。
だが、獏良の家に集まる予定になっていた。
皆で遊戯の誕生日を祝ってくれる約束なのだ。
本当は今日が遊戯の誕生日なのだが、抜けられないバイトのある城之内や杏子の都合で、明日になったのだ。
そう、今日が遊戯の誕生日。
もしかして、もしかして。
これは、期待してしまうではないか。
海馬が自分の誕生日を覚えていてくれたかもしれない、なんて。
下駄箱でようやく海馬に追いついた。
お邪魔します、なんて言いながら横付けされた黒塗りの高級車に続いて乗り込む。
海馬は無言だった。
淡い期待が窓を打つ雨の音に打たれて、だんだん萎んでいく。
別に誕生日プレゼントが欲しいわけじゃなくて、ただ、言葉が欲しかっただけ。
『誕生日おめでとう』
その言葉でどれだけ自分が有頂天になれるか簡単に想像出来るのに。
現実はただ海馬の隣で縮こまっているだけだ。
「明日は奴らと集まるのか」
ふいに海馬が口を開いた。
「あ、うん!」
頷いた遊戯はなるべくさり気無い風を装って続ける。
「海馬くんも、よかったら、来ない?」
ボク、誕生日なんだ。
海馬くんからお祝いの言葉が欲しいんだ。
一言でいいから。
もちろんそんなことは言えやしないけれど、ひょっとして何かの気紛れで、来てくれる気になるかもしれない。
「断る」
希望的観測を掲げた遊戯の心を海馬は簡単に粉砕した。
思わずがくりと項垂れる遊戯に、海馬は言った。
「オレは狭量な男なのでな」



「お前を誰かと共有する気はない」

 




にやりと笑う海馬にその言葉の意味を問う前に、車は海馬邸の中へ吸い込まれた。






END

 





お祝いしてあげたいけど、凡骨たち有象無象と一緒くたにされるのは嫌、
独占欲の強い社長は結果やっぱ拉致ってます(笑)
と言う話でした。

遊戯ちゃんお誕生日おめでとう!!!!

 


お題はこちらから
capriccio

 

2010.06.04

 

 

 

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