■食べる?(海表)■

■一年十二題
食べる?(海表)




 














 

甘い香りが漂っている。
その匂いに釣られるように、海馬は自宅ながら用が無いので入ったことなど無かったキッチンへ足を踏み入れた。
「何をしている」
海馬の声にモクバと遊戯が同時に振り替える。
「あ、兄サマ。おはよう!」
「おはよう海馬くん、お邪魔してます!」
「・・・何をしている」
海馬はもう一度繰り返した。
繰り返してみたものの、台所の惨状を見れば何をしているのかはわかった。
粉はテーブル中に撒き散らされているし、割れた卵も放置されている。
ケーキを作っているのだ、多分。
だがなぜ人の家で遊戯がケーキを作るのかがわからない。
「ケーキを作ってるんだよ」
遊戯は見たままを答えた。
モクバが付け加える。
「明日、兄サマの誕生日だから、何か手作りのモノをあげたくってさ」
「高価なものはボクのお小遣いじゃ無理だしね」
遊戯が苦笑交じりに言う。
「其れでモクバくんに相談して一緒に作ろうってことになったんだ」
成程、失念していたがそういえば自分の誕生日だった。
海馬は自分の生まれた日というものに特に執着も興味もないが、この二人にとっては違うらしい。
まるで世界的な大イベントのように前日からこの騒ぎだ。



そんな風にされると、この日も意味のあるものなのではないかと思える。

祝ってくれる者の居ることが、嬉しいと素直に言える気がする。
生まれてきたことが意味のあることなのだと思っていい気がする。


海馬はキッチンの壁に寄りかかって、ケーキ作りを観察することにした。
「ちょ、海馬くん。見ていられるとやりにくいんだけど・・・」
生クリームを泡だてていた手を止めて遊戯が言う。
まあこの惨状を見れば確かに海馬本人に見ていられたくはないだろう。
「ちゃんと食べられる物を作るか監視しているだけだ」
気にせず続けろ、とにやりと笑ってやる。
「ヒドイよ海馬くん」
遊戯はぶうと口を尖らせた。
「見た目はともかく、ちゃんと食べられる物を作るよ!」
見た目の保証はないのか。
しかも食べられる、という保証だけで、味も保証していない。
どんなものが出来上がるか楽しみだ。
海馬が遊戯をからかって面白がっているのに気が付いたのか、モクバが言った。
「兄サマ、今日は会食の約束があったんじゃなかったの」
モクバ的にもやりにくいので見ていないで欲しいらしい。
「そんな堅苦しいものではない。ランチでも一緒にどうかと誘われただけで正式なものでもない。キャンセルする」
「え、大丈夫なの海馬くん」
泡立て器を持って遊戯が心配そうに此方を見る。
「問題無い。遊戯の作ったケーキを食べて腹を壊したことにする」
「失礼な!」
「もう兄サマってば」
モクバが焼き上がったスポンジをオーブンから取り出して呆れた声を出した。
「オレちょっと、磯野に連絡してくるゼィ」
スポンジは少し熱を取るために置いたまま、モクバはそう言ってキッチンを出ていく。
我が弟ながらよく出来た弟だ。
後には甘い香りと共に、遊戯と海馬が残った。
遊戯は生クリームを泡だてる作業に戻る。
「こんなもんかな?」
海馬にはよくわからないが、泡立て器を持ち上げ、クリームの落ちる様子で泡立て具合を確認しているらしい。
遊戯は泡立て器に付いた生クリームを指でとってペロリと舐めた。



その口元に、視線が引き寄せられる。



ボウルを覗きに来た海馬に遊戯は胸を張る。
「後はスポンジにクリーム塗って、それっぽく果物盛りつければ完成だよ海馬くん」
「まあ腹を壊すことは無さそうだな」
「もう!大丈夫だって言ってるでしょ!」
しつこくからかう態勢な海馬に遊戯はむくれてみせた。
「あんまり甘くないようにしたつもりだけど、一応、味見しとく?」
「いいのか」
「うん」
はい、と生クリームの入ったボウルを差し出される。
先ほどの遊戯のように指で掬って舐めろというつもりなのだろう。
しかし海馬はボウルをそっと脇へ避けて、遊戯に近づいた。
ぺろり、と遊戯の唇を舐めて言う。






「十分甘いぞ」

 

 

 






END



 





海表
社長お誕生日おめでとう!!

お題が食べる?では遊戯ちゃんを食うという発想しかできんかったよ(^^ゞ

 


お題はこちらから
capriccio

 

2010.10.25

 

 

 

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