■夢見月(海表)■

■十二ヶ月
夢見月(ゆめみづき)  温んだ水。少しだけ遠い背中。寂しがり屋も卒業。 




 














 

学校帰り、目の前が突然暗くなって、遊戯は顔を上げた。
「このオレを無視するとはいい度胸だな遊戯」
「海馬くん!」
歩く遊戯の前に仁王立ちになり、進路を阻んでいたのは海馬だった。
出席日数や単位などの都合でアメリカから戻って来ていたのだ。
一応、高校を卒業しておく気はあるらしい。
「ごめん、聞こえなかったんだ」
耳に入れていたイヤホンを外して遊戯は謝罪した。
「歩きながらそんなものを聞いていては危険だろう。何を聞いていたのだ」
「人気プロゴルファーもお勧めの英語の教材だよ」
聞き流すだけで英語がマスターできる、などという謳い文句で有名なアレだ。
「遊戯」
心底憐れなモノでも見るかのような目で海馬は言った。
「貴様、英語も喋れんのか」
海馬にとって英語はすでに母国語レベルのものであるらしい。
だが悲しいかな、遊戯にとっては違う。
「・・・海馬くん、ボクの英語の成績知ってる?」
喋れる訳が無いでしょう、ボクは日本人なんです。
「その『日本人』が何故今更英語を学ぼうとしている?」
今更、と海馬が言うのも無理はない。
もうすぐ高校生活も終わりを告げる。
日本で普通に暮らして行く上で、残念ながら英語というものはもうそれほど使う機会もないだろう。
本の上で学んだ英語ならば尚更。
今更何を、という海馬の言葉は正しい。
けれど。



「見送るのは、もう嫌だから」



誰かの背中を見送るだけはもう嫌だ。
嘆いても、手を伸ばしても、届かない処まで還って行ってしまった大好きな人が居る。
何もしないでただ其処に居なくなった人を思っているだけなんて、もう、そんなことしたくない。
努力すれば追いかけることが出来る処に、居るのに。



「だから、追いかけることにしたんだ」


待っていないで追いかける。
そして必ず追いついて見せる。



遊戯の言葉に海馬はにやりと笑った。
「本当に喋れるようになりたいのなら、実践が一番だぞ」
「うん、そういうよね」
遊戯は頷いた。
喋れなければ死活問題になる、そういう状況へ自身を送り込むのが一番の近道だ。
つまり、後先考えず単身渡米してしまう、ということ。
出来ればそれは最終手段にしたいものだが。
「まあ本当に切羽詰まったら、コネを最大限に利用させて貰おうとは思ってるよ」
その時はアルバイトでも紹介してよ。
軽い調子で付け加えると、海馬は鼻で笑った。
「アルバイトだと?」
それからいつもの高笑いをして言った。
「ふざけるな、海馬コーポレーションに重役扱いで召し抱えてやるわ!」
「いやあの、そんな重要ポストでなくていいんだけど」
丁重に遠慮してみたが海馬には通じなかったらしい。
簡単に一蹴された。
「決闘王を下っ端扱いなど出来るか!」
「ちょ、待ってよ海馬くんってば!」
相変わらず人の話を聞かない海馬を追いかけて遊戯は走り出した。




 


一緒に歩く、その為に。




 

 



END




 




海表
社長を追いかけて渡米します。


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Fortune Fate

 

2011.03.27

 

 

 

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