雪待月(ゆきまちづき) 白い息。隣の温もり。雪が降っても溶けるほど。
車内は暖かった。
海馬のウチの車は黒塗りの高級車、後部座席の窓は黒いスモークが貼ってある。
座り心地は抜群だが、外から見たら、怖い職業のオジサンでも乗っているように見えないだろうか。
遊戯は、はあっと窓に息を吹きかけた。
曇った窓ガラスに目と口を書いて丸で囲う。
怖くないよ乗ってるのは海馬くんだよ、というアピールのつもり、だった。
うん、可愛い。
にこりと笑ったところで落書きを見咎められた。
「何をしている」
「あっごめん!」
つい落書きなんてしてしまったが、こんなぴかぴかの車を汚しただけだった。
慌てて消すと前方でもう顔馴染みの運転手がくすりと笑う。
海馬が咳払いをした。
「ええと、何処へ連れて行くつもりなのかな海馬くん」
話を反らす為に遊戯は言った。
何時もの調子でいきなり玄関先で拉致られたのだ。
何も聞いていない。
「スキー場だ」
「えっ…寒そうだね」
車の中は暖かいからいいけれどいきなり連れてこられた遊戯はかなり軽装だ。
雪山へ行く格好では無い。
海馬は言った。
「なんだ、お前は寒いのが好きなのではないのか?」
「えっ」
そんなことを海馬に言ったことがあっただろうか。
遊戯はどちらかというとインドア派で運動は苦手なのだが。
遊戯の表情を見て海馬は笑った。
「寒いからこそ、温かいものが旨いのだろう?」
…言った。
肉まんや焼き芋を食べながら確かにそんなことを言った覚えがある。
食べ物の話ばかりだ。
「…だって美味しいもん」
美味しいものを食べると幸せな気分になるではないか。
あの時は海馬にもその気分になって欲しかっただけだ。
幸せな気分を共有したかっただけだ。
そんなことを言っている間にも車はスキー場へと近づいている。
この車、タイヤ雪仕様なのかしら。途中でチェーンとか巻くのかな。
ぼんやりそんなことを考えていたが、初歩的な処に気が付いて遊戯は言った。
「…ボク、スキーってやったことないんだけど」
「大丈夫だ、教えてやる」
海馬は長身だしスキーをする姿はきっと恰好良いだろう。
自分はきっと転んで雪だるまみたいになってしまうに違いない。
ちょっと憂鬱だ。
けれど隣の海馬はとても楽しそうだ。
「海馬くんはスキー好きなの?」
「ああ。楽しいぞ」
海馬くんは楽しい気持ちをボクと共有したいと思ってくれてるのかなぁ。
唐突にそう思った。
遊戯が焼き芋を半分こして海馬と一緒に食べた様に、一緒に食べて嬉しかったように。
そう思ったら遊戯もなんだか楽しくなってきた。
「ボク、板とかも全然持ってないよ」
「大丈夫だ、準備してある」
「…優しく教えてね」
「善処しよう」
何だかスパルタでしごかれそうな予感もするが、暖かい車は一路スキー場へと向かっているのだ。
END
海表
遊戯ちゃんがスキ―が出来そうな気がしない(^^ゞ
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Fortune Fate
2011.11.27