■息の白さは冬の冷たさ(海表)■

■季節4題
息の白さは冬の冷たさ



 










 

「遊戯」
珍しく学校へやって来て最後のホームルームまで居た海馬くんが、短くボクのことを呼んだ。
こうやって最後まで居る時に、海馬くんが帰りに呼んでくれる事がある。
それは『一緒に帰ろう』の合図だってボクは思ってる。
一緒に帰ろう、なんて誘ってもらったこと無いけれど。
そんな事言わないのが海馬くんだから。
素直じゃないんだゼィ、とはモクバくん談だ。
兄サマは遊戯と一緒に居るとスゲー嬉しそうなんだぜ、なんて自分の事のように嬉しそうに言っていた。
海馬くんがボクと一緒に居て本当に楽しいのか、其処の所は残念ながらボクにはちょっとわからないけれど、ボクの方はこの時間が好きだ。
海馬くんと一緒に過ごせる大事な時間だから。
今日はしかも歩いて一緒に帰ってくれるらしい。
昇降口まで出てきたら何時もの車が居なかった。
「あれ、海馬くん車は?」
「今日は迎えは来ない」
「えっどうして?」
「この間、歩いて一緒に帰ってみたいと貴様が言ったのだろう」
覚えててくれたんだ。
凄い嬉しくて思わず笑った。
車に乗せて貰うのも結構好きだけれど、海馬くんのウチの車はホント高級車で乗り心地抜群なのだけれど。
でも歩いて帰ったらもっと一緒に居られるし、もっと沢山お喋り出来るじゃないか。
寄り道して買い食いしようよ、とダメモトで誘ったら海馬くんはコンビニも一緒に来てくれた。
ただし黒い見たこともないクレジットカードで110円の肉まんを買おうとしたので此処はボクが支払っておく。
海馬くんは大変不満そうだったけど、今度は海馬くんが奢ってねと言ったら引き下がってくれた。
次は小銭を持ってきてくれるといいんだけどな。
渋々、といったその様子が何だか可笑しくてまた笑う。
コンビニの肉まんを真面目な顔で咀嚼する海馬くんも可笑しかった。
そんなに真面目な顔で食べるものじゃあないよ、それ。
ああ、何時もと同じ道なのにこんなに楽しい。
息が白いのまでも楽しく思える。
こんなに寒いのに。
「まったく」
海馬くんは言った。
「何がそんなに楽しくて笑っているのかオレにはさっぱり理解出来ん」
「だって楽しいよ。海馬くんと一緒ってだけで楽しい」
ボクがそう答えると海馬くんは笑った。
「確かに」




「お前が笑っているのを見るのは悪くない」




兄サマは素直じゃないんだゼィ。
モクバくんの言葉が頭を横切った。
素直に楽しいって言ってくれればいいのになぁ。
でもそんな言い方も海馬くんらしい。



ボクがまた笑うと海馬くんも笑ってくれた。

 

 

 







END





海表


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現世の夢


 

2012.01.22

 

 

 

 

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