付き合ってるのに触れてもくれない
ボクと海馬くんは所謂お付き合いというものを始めた、らしい。
いつものように唐突に家にやってきた海馬くんはいきなり「お前が好きだ。オレと付き合え!」と怒鳴ってきた。
ボクは「うん、いいよ」と即答した。
海馬くんは答えが早かったことに吃驚したみたいで、「遊戯貴様意味が解っているのか!」なんて怒りだしたけど、ちゃんと解ってる。
ボクは随分前から海馬くんが好きだった。
最初は憧れてた。凄いなあって思っていただけだった。
ゲームが強くってすごい大きい会社の社長さんで、ボクと同い年なのに、なんて凄いんだろう、って。
まあ酷い目にあったり、色々あったんだけど、モクバくんと仲良くなったりするうちにまたボクはやっぱり海馬くんって凄いなあって思うようになった。
いつか海馬くんと正々堂々とデュエルしたい。
デュエルだけじゃなくてもっと他のゲームも一緒にやってみたい。
ボクが良くそんな風に言うものだから、<もう一人のボク>が言った。
『相棒、それってまるで恋でもしているみたいだぜ』
恋でもしてるみたい。
其れでボクは自分が海馬くんに恋しちゃってるんだって気が付いた。
そんな相手が家へ来て、「付き合え」って言ってくれたんだから、勿論否は無い。
むしろ大喜びだ。
そうしてボクと海馬くんはお付き合いというものを始めた筈なんだけれど。
なんかボクが思っていたのと違う気がする。
海馬くんは忙しい合間を縫ってボクを拉致りに、いや遊びに連れだしてくれる。
海馬くんとゲームしたり、お喋りしたりするのはとっても楽しい。
けれど海馬くんは決してボクに触らないのだ。
手も握って来ない。
ボクから手を繋ごうとするとすっと避ける。
まあいきなり、その、大人のお付き合い的なモノを要求されても困る訳なんだけども、手ぐらい握っても罰は当たらないんじゃないかなあ。
これじゃ付き合ってる恋人同士じゃなくて、ただの友達みたい。
意味が解ってるのか、なんて言って、解ってないの海馬くんの方じゃないの?
けど一人で唸っていても仕方ない。
海馬くんは嫌なことは嫌とはっきり言う人だし、聞けば答えてくれると思う。
何で手を繋ぐの嫌なのか。
その機会をずっと窺っていた訳なんだけども、なかなか勇気が出なくて実行出来ない。
久しぶりに学校へ来た海馬くんが一緒に帰ろうと誘ってくれたので今こそチャンスな訳なんだけど。
本当はボクの事嫌いなんじゃないかなんて、余計なこと考えだすとキリがない。
不安で動けなくなる。
そんなことを考えていたせいか、階段を踏み外してしまった。
落ちそうになるボクの身体を、海馬くんが支えてくれた。
「ご、ごめん。ありがとう海馬くん」
「気を付けろ」
そう言ってすぐに離れて行こうとした腕を、ボクは掴んだ。
「海馬くんはボクと手を繋いだり触られたりするの、嫌なの」
「嫌じゃない」
「…だが怖い」
怖い。
壊してしまうのではないかと不安になる。
海馬くんがそんな風に思っていたなんて考えてもみなかった。
海馬くんは不安になることなんてないんだと思っていた。
「ボク、結構頑丈だし、しぶといよ?」
「知ってる」
「頑固だし、強かだよ?」
「…そうだったな」
海馬くんは笑った。
ボク達もっとお喋りしてお互いのこと知らなきゃいけないんだね。
まずはボクの何処が好きなのか聞いてみてもいい?
END
海表
お付き合いを始めたばかりなカンジの海表
社長も初々しい(笑)
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恋したくなるお題(配布)
2013.01.26