この瞬間の精一杯
海表
目が覚めたら、知らないベッドの上に居た。
どうも何処かのホテルらしい。
昨日はちゃんと自分のベッドで寝た筈なんだけど、とか思う前に、ああまたか…と頭を抱える。
何度もやられてもう慣れてしまっているのが怖い。
こういうことするのは海馬くんの他に居ない。
玄関開けたら黒塗りの車が居てそのまま連行されたりとか、普通に寝ていた筈なのに拉致られて他の場所とか、日常茶飯事だ。
此れって犯罪だからね。
今日という今日はきっぱり言ってやらなければならない、と思うのに、忙しい海馬くんがボクに会う為に仕事をやりくりして頑張ってくれたんだと思うと、つい言えないくなってしまう。
惚れた弱みってこういうことなんだろう。
特に今日はボクの誕生日だ。
自分の誕生日なんか仕事仕事で流しちゃうのに、ボクの誕生日を覚えていてくれたなんて。
そう思うとやっぱり拉致られて怒る気持ちよりも嬉しい気持ちの方が先に立ってしまう。
其処へ海馬くんがやって来た。
「目が覚めたか、遊戯」
「おはよう海馬くん、此処何処?」
「カナダだ」
カナダって数年前冬季オリンピックやったとこだよね。
海外だとは思っていなかった。
まあ海馬くんは自家用ジェットとか持ってるし、あり得ない話じゃない。
ああこの間パスポートを更新させられたのはこういうことだったのか…と、ちょっと遠い目をしていると海馬くんが言った。
「誕生日おめでとう」
「あ…ありがとう」
やっぱり覚えていてくれたんだ。
嬉しくて、今日こそは言わなきゃと思っていた苦情も引っ込んでしまう。
「此れを、お前に」
「ありがとう、開けていい?」
差し出された箱を受け取って訊くと海馬くんは頷いた。
あんまり高価なものだと正直ちょっと困るなあ。
「…此れって」
其処には銀色のリングが入っていた。
シンプルな銀のリング。もしかしたらプラチナなのかもしれない。
「遊戯、お前も此れで18だ」
海馬くんは言った。
「オレと、結婚して欲しい」
「一生、隣に居て笑っていて欲しい」
海馬くん男同士は結婚出来ないんだよ。
そんな真っ当な意見も言えなかった。
一生、隣に。
海馬くんがそんな風に思っていてくれたなんて。
「うん」
ボクが頷くと海馬くんは言った。
「では早速式を上げよう」
「えっ、今から?!」
「お前が承諾してくれてよかった。準備はすべて整っている」
ちょっと、それボクの承認待ちだったってこと?
っていうか、そういう準備って、まずボクに話してからするもんじゃないの。
何もかもすっ飛ばしてる気がする。
けど此れが海馬くんなのだ。
仕方ないなあ、とボクは笑った。
でも。
「ボク絶対ウェディングドレスなんか着ないからね!」
海馬くんの奇行を、いつもつい、許しちゃうけど、今回此れだけは譲らないから。
其れが今の精一杯。
END
海表
社長は絶対ウェディングドレス用意してるwww
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2014.06.04