■思い切って私から(海表)■

■発展途上の恋のお題
思い切って私から(海表)


 










 


海馬瀬人ほど神出鬼没な人間は居ないと思う。
遊戯の誕生日には突然玄関先に黒塗りの高級車で現れて、高らかに「誕生日だそうだな、遊戯!このオレが祝ってやろう」と宣言し、あちこち連れまわされた。
誕生日に限らず、突然目の前に立ちはだかり、拉致られたり拉致られたり、拉致られたりすることは日常的にある。
まあ惚れた弱みというか、其れが嫌ではない訳だが、いつも予測出来なくて死ぬほど吃驚する訳だ。



嫌ではないのだが。


けれどたまには遊戯だってやり返してもいいのではないかと思う。

突然訪ねて行って海馬を驚かせても罰は当たらないと思う。



そんな訳で海馬の誕生日、ささやかながらプレゼントを携えて、アポもなく海馬邸のベルを鳴らした遊戯は、出迎えてくれたモクバに気の毒そうに告げられた。
「兄サマ、アメリカに出張しているんだ。今日帰ってくる筈なんだけど…」
「ええ!?」
まさかの海馬不在。
その可能性を考えていなかったのは不覚だった。
痛恨のミス!
遊戯はがっくりと肩を落とす。
「ま、まあ中入れよ。お茶くらい飲んでけって」
「…ありがとう、モクバくん」
項垂れる姿があまりにも哀愁を誘ったのか、モクバは遊戯の肩を叩くと中に招き入れてくれた。
「珍しいじゃん、遊戯が兄サマの予定も聞かないでウチへ来るなんて」
「うん。ボクもたまには海馬くんを驚かせてみたかったんだ」
「驚かす?」
聞き返すモクバに遊戯は頷く。
「ボクは何時も海馬くんに吃驚させられてるから」
「それって仕返しってことか?」
遊戯の言葉の選び方が良くなかったらしく、モクバは眉を顰めた。
「違うよ!サプライズ、ってことだよ!」
驚かしたかった、というのは本当だ。
けれど其れは、いつも驚いた後に、とても嬉しくなるからだ。
何時でも唐突だけれども、自分の事を思って、喜んでくれるだろうと思って、やってくれていることだからだ。
「ボクも海馬くんに喜んで貰いたかっただけなんだ」
「成程ね」
うんうん、とモクバは頷く。
「遊戯が来てくれた、なんて、兄サマ絶対喜ぶと思うぜィ」
「そうだといいんだけど」
でも居ないのでは仕方がない。
プレゼントはモクバに預けて帰宅するしかないだろう。
其処へいきなりバンと扉が開いて、海馬が踏み込んできた。
「遊戯がオレを祝いにやってきただと!」
「えっ!?海馬くん、アメリカじゃなかったの?!!」
吃驚する遊戯に海馬は何時ものように尊大に言い放った。
「馬鹿め、オレはジェット戦闘機を操縦できるのだぞ!」

そうでした…。

遊戯は項垂れる。
会社の方へ自家用のジェットで帰ってきていたらしい。
今回も吃驚したのは自分の方だった。
ボクが海馬くんを驚かすなんて永遠に無理なのかも。
そう思っているとちょこちょこっと此方へ寄ってきたモクバがこそりと耳打ちしてくれた。
「さっき遊戯が来てるってメールしたんだ。兄サマってばそれ見て速攻帰ってきたらしいよ」
帰ってくる気ではあったらしいけど、それにしたって早いよなーとモクバは感心しきりだ。


海馬くん、もしかして、早くボクに会いたいとか、思ってくれたのかな。

そう考えたら嬉しくて仕方なくなってしまった。

 

今日は絶対ボクが驚かせて、そして喜んで貰おうと思ったのに。


 




でも次こそ、とリベンジに燃える遊戯は、海馬がこの後しばらく上機嫌であったことを知らない。















END




海表
社長を驚かせて、喜んで貰いたかった遊戯ちゃん
どっちも成功していることには気がついていないという

社長お誕生日おめでとうございます!


 


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2015.10.25

 

 

 

 

 

 

 

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