アニメ乃亜編。モクバちゃんが乃亜兄サマのトコに行っちゃった後くらいの感じで。
「お前には関係ない」
海馬は言った。
「これはオレ達兄弟の問題だ。お前には関係ない」
確かに、その通りなのかもしれない。
だが罠と知りつつモクバを捜してトンネルに飛び込んだ海馬を遊戯はどうしても一人で行かせる気にならなかった。
・・・一人で行かせたくなかった。
だから後を追って走り出した。
暗く口を開けたトンネルの中へ。
ボクがいるよ。
「どうして乃亜の言うことがヘンだって思うの?」
放っておけばまた一人でいなくなってしまいそうな海馬に遊戯は必死で話し掛ける。
海馬は一拍置いて振り返った。
「・・・ヤツの言うことが本当なら、少なくともオレと同じくらいの年のはずだ」
確かに乃亜の言っていたことがすべて正しいのなら。
乃亜が本当に海馬剛三郎の本当の息子なら。
「だが」
海馬は遊戯があの洋館から持ち出した写真を示した。
「ヤツは成長していない」
そう、乃亜はまったく大きくなっていない。
・・・・そのままだ。
再び歩き出した海馬の後を遊戯は付いていく。
だけど。
遊戯は思う。
乃亜は自分に似た瀬人を剛三郎が気に入って養子にしたと言った。
乃亜と瀬人は似ている。
最初に見たときはそれは気にならなかった。
突然モニターに現れた乃亜が海馬を『瀬人』と呼び捨てにしたことの方が気になった。
だが、今は。
あの古びた洋館で乃亜を目の前にして、確かに似ていると思った。
その、目が。
とても綺麗なのに昏く冷たい蒼い瞳――
昔の海馬と同じ瞳。
「・・・何か甘い匂いがするね」
ふと遊戯が言った。
遊戯に言われてようやく気が付いたように海馬が足を止める。
甘い、匂い。
「桃、か?」
2人が歩いていた道の横に立っていた木。
「食べられるのかな」
桃の木の下で遊戯が言った。
この世界は本当の世界ではない。
だけど水の流れもその冷たさも感じることが出来る。
身体に感じる痛みさえも本物のように。
この桃も本物のように食べることが出来るだろうか。
モノは試し、食べてみようと伸ばした腕は残念ながら実までは届かなかった。
「あ〜」
身長が足りない、と自分でもわかっているので余計に悔しい。
遊戯が伸ばした手の先にある実を横から伸びてきた手がもいだ。
「・・・海馬くん」
そのまま皮を剥いて自分の口に運ぶ。
さらに甘い匂いが拡がった。
「・・・一応、食べられるようだな」
「おいしい?」
海馬はそれには返事をしなかった。
「何があるかわからないのだから迂闊に動くな」
「うん」
きつい語調だが心配してくれているのだと遊戯はわかる。
遊戯にはもうそれがわかるのだ。
だから。
『お前には関係ない』
そんなふうに、言われたくない。
「ボクも食べたい」
海馬はもうひとつ桃をもいでやろうとした。
それを遊戯が阻む。
「いいよ、これで」
海馬の手にある桃を手ごと引き寄せてそれを齧った。
口の中に広がる桃の香り。
「おいしいね」
「そうか」
おいしいと思う、それさえも錯角なのだろうか。
でも。
「モクバくんは、大丈夫だよ」
遊戯が海馬の手の中の桃を見ながら言った。
「・・・ああ」
海馬が小さく答える。
・・・遊戯は海馬を抱きしめたくなる。
ここにいるのが小さな少年のような錯覚を覚えて。
その瞳は澄んではいるが寂しい蒼をしている―――
「おーい、遊戯!」
だがそれも仲間たちの自分を捜す声に霧散する。
遊戯たちが先に来てしまったため捜している。
「城之内くん!こっち!!」
遊戯のその手を今度は海馬が掴んだ。
そのまま口元に運ぶ。
「海馬、くん」
海馬の唇が桃の果汁を舐めとっていく。
「海馬くんてば・・・!」
指先から走る熱に、遊戯は手を引こうとした。
「・・・大丈夫だ」
にや、と口元にいつもの笑み。
意地悪ともとれるその笑みにとりあえずいつもの海馬に戻ったのだと安心する。
「もう!」
怒った振りをして覗き込む、その瞳は蒼。
綺麗で深い色をしたそれは強い光を放っている。
強い、蒼。
遊戯の好きな。
遊戯は城之内の声にもう一度手を振った。
たとえこの世界のすべてが幻だったとしても
ボクのこの気持ちだけは
嘘じゃない。
大丈夫、キミの瞳を
2度と凍らせたりはしないから。
ボクが、ここにいるよ。
END
海馬様、モクバちゃんに振られたのがショックだったみたいだから。
モトネタはマッキーの「桃」なんですが、かなり違った感じに(^^ゞ
2002.06.27