社長の自室でα波。
「なんだこれは」
仕事から帰り、自室の扉を開けた海馬は思わず言った。
目の前に広がる南国リゾート。
海馬コーポレーションお得意の立体映像だと気が付くのに時間はかからない。
ご丁寧にBGMは波の音だ。
「あ、お帰りなさーい海馬くん」
「お帰りなさい、兄サマ」
弟の声と、もう一人。
いっそ能天気と言ってもいいほどの声が海馬を出迎える。
「遊戯」
やはりお前か。
海馬はこめかみを押さえた。
そうじゃないかと予想はしていたが。
他の誰が海馬の不在時にこんなことをするだろうか。
恐ろしくて出来ないに違いない。
「何々だこれは」
にこにこ寄って来た遊戯を捕まえてもう一度問いただす。
見れば本物のパラソルなども立ててある。
もっとも下が砂地ではないので用意した台座の上にだが。
そのパラソルの下のイスに寝そべってサングラスを掛けたモクバがジュースを飲んでいた。
くどいようだが海馬の自室である。
室内だ。
「だってさーせっかくの夏休みなのに海馬くん仕事で忙しいし」
遊戯は可愛らしく唇を尖らせた。
「どこにもいけないならせめて気分だけでも、と思ってさ」
それは別にかまわない。
映像を使うのもいいだろう。
しかし何故それをオレの部屋でやるのだ!
と、怒鳴りたいのは山々だったが遊戯ににっこり微笑まれて海馬はそれを飲み込んだ。
それ以上の会話を断念して机上のパソコンを立ち上げる。
帰宅したとは言えまだ仕事はたくさんあるのだ。
ふと気が付くと先ほどまでの波の音はクラッシックに換わっていた。
「お前がクラッシックを聞くとはな」
確か聞いていると眠くなる、と言っていたように思ったが。
「あ、これ?」
遊戯がモクバの部屋からわざわざ運んできたらしいCDデッキを指差して答えた。
「あのね、よくわかんないんだけど」
そう前置きをして続ける。
「こういうの聞くと『アルハーハ』ってのが出てリラックス出来るんだって」
アルハーハ。
どこで聞き齧ってきたのか知らないがそれを言うならα波だろう。
環境音楽、とか言うヤツだ。
よほど言ってやろうかと思ったがとりあえずやめておいた。
多分、忙しい自分の為に
用意したものだとわかったから。
まあ自分達も楽しみたかったのだろうが。
海馬が怒ってないと見るとまた騒がしくなってきた。
「イチゴとメロンとあるけどどっちがいい?」
「オレ、イチゴがいい」
遊戯が家から持参したらしいカキ氷を作る道具ではしゃぎながら氷を削っている。
もうすぐ海馬にもカキ氷の乗った器が差し出されるのだろう。
海馬はそんな様子を見ながら残った仕事を片付けることにした。
大切な者が安らぐ、この環境で。
END
遊戯ちゃんが居ればそれだけで癒しなんですけどね。
2002.08.01