■モクバと海馬家の玉子焼き■

海馬家シリーズ
お昼から出社の副社長にお弁当を作ることに。チビちゃん4〜5歳。




海馬家とは

遊戯ちゃんと社長が夫婦で(にょたではないです)
長男は闇様で次男が乃亜王子というパラレルシリーズです。
基本は海表。
詳しくは此処から




武藤遊戯は高校を卒業すると思い切り良く海馬家へ嫁に行きました。
嫁、という表現は世間一般的には正しくないかもしれません。
武藤遊戯という人物は、小柄で細く大きな瞳が印象的な可愛らしい容姿を持ってはいましたがまぎれもなく「男の子」でしたから。
ですが海馬瀬人と武藤遊戯は「恋人同士」でありましたので海馬邸で一緒に暮らしだしたということは結婚したも同然ということでしょう。
男同士ではありましたが。
そうして二人の間に待望の第一子が生まれました。
何度も繰り返しますが二人とも男です。
普通に考えれば子供が出来るわけなどありません。
でもこの場合そんなことは些細なことなのです。
気にしてはいけません。
ここで問題なのはその生まれた男の子が遊戯が<もうひとりのボク>と呼んでいた古代エジプトの王様『アテム』の生まれ変わりだった、ということでした。

 

 

***************

 


 

 

海馬を見送って、遊戯が振り返った。
「モクバくんはまだ平気なの?」
「ああ」
モクバは食後のコーヒーを飲みながら頷いた。
遊戯が訊ねているのは、海馬が出社したのにモクバはゆっくりしていて大丈夫なのか、ということ。
今日は土曜日。
世間的に学生は休みだ。
もっとも学生であると同時に海馬コーポレーション副社長という肩書きを持っているモクバである。
社会人としてのモクバは休みなわけではない。
「オレは、午後からでいいって。兄サマが」
「そうなんだ」
昨日のうちに午後からの会議に間に合うように来ればいいと海馬に言い渡された。


ほんの少し前まではそんな気遣いが、嫌だった。
兄が自分を心配してくれているのはわかるけれど。

休めるときには休んでおけ、と。
まだお前は学生なのだから、と。

同じ年のころにはもうすでに社長で
休む間もなく働いていたくせに。

あの頃自分だって
兄にもう少し休んでくれと懇願したのに。



モクバの答えに頷いて遊戯はテーブルに戻ると自分のコーヒーに砂糖を入れた。
それからミルクもたっぷり。
「うわ、甘そう」
「だって苦くて飲めないもん」
砂糖の数を見て大袈裟に言うと遊戯はむうと口を尖らせた。
「あいぼうは、こうちゃのほうがすきなんだよな!」
牛乳を飲んでいた<遊戯>が助け舟のつもりなのか口を出してきた。
「うん」
「確かに遊戯は紅茶淹れるの上手いよな」
「ありがとう」
お茶の時間に遊戯が淹れてくれる紅茶は、とても美味しい。


家族が揃っての時間なら、なおさら。


お茶の味を思い出しつつ誉めると、遊戯は嬉しそうに礼を返して笑った。



「じゃあお昼食べてから会社行く?」
「うーん・・どうしようかな。12時には会社に着いていたいし」
会議は1時からだったはずだ。
だが早めに着いて資料などにも目を通しておきたい。
少し思案していると牛乳を飲み終わった<遊戯>が再び口を挟んでくる。
「あいぼうに、おべんとうつくってもらえばいい」
「弁当?」
「ああ、いいね!じゃあそうしようか」
遊戯が名案だ、とばかりに手を叩いた。
「お弁当箱無いなぁ・・とりあえずボクのでいい?」
「え、でも遊戯、」
「大丈夫、すぐ作れるし」
そんな急に悪いから、と遠慮しようとしたモクバの言葉を遊戯がにこりと笑顔で遮った。
それから遊戯こそが遠慮がちに訊ねてくる。
「オカズ、海馬くんのお弁当の余ったのになっちゃうけど・・いいかな?」
「ああ」
もちろんモクバに否は無い。
「モクバもあいぼうにまいにちおべんとうつくってもらえばいいのに」
「でも、たいへんだろ?」
<遊戯>と海馬と、必要に応じて自分の分と。
遊戯は海馬コーポレーションで週に何日かバイトをしている。
その日だけついでのように自分の分も作っているのをモクバは知っていた。
「1つ作るも2つ作るも一緒だよ」
大丈夫と言い切る遊戯に、ひょっとしてこの話をする機会を伺っていたのでは、と思う。

海馬も昔は食事のことなど無頓着で、仕事優先だった。
下手をすれば昼食など抜いてしまうことすらあった。
だが、遊戯が弁当を作るようになってからそんなことは無くなったのだ。
栄養を口から流し込むだけ、の食事はしなくなったと思う。
モクバもまれに不規則になってしまうことがあって、日頃から遊戯はそれを心配してくれていた。

そう思うと実にタイミング良く<遊戯>が弁当の話題を振ってきたことも仕込だったのでは、と思えてくる。

上手く、乗せられたかな。

苦笑したが、しかしそれは不快なものではない。



ほんの少し前まではそんな気遣いが、嫌だった。



「モクバくん、何が好き?」
もうすっかり来週からモクバの分も弁当を作るつもりの遊戯が訊いてきた。
「・・玉子焼き」
すっと口から答えが出た。
弁当に入っている、実によくあるありふれたオカズ。
「甘い玉子焼き?」
首を縦に振って肯定を示す。

甘い玉子焼き。
そんなものを食べたのはいつだったろう。
はっきりと記憶に残っているわけではないのに、懐かしい。
本当の親のことなんて全然覚えていないけれど。
此処のところ兄の弁当箱に入っている黄色は何故か目を惹いた。


遊戯の作る、あの色に憬れていた。


その家の味が出るものだからかもしれない。


「あいぼうのたまごやきはすごくおいしいぞ」
自分が作っているわけでもないのに<遊戯>がえへん、と胸を張って言う。
「楽しみにしてるぜぃ」
遊戯が優しく笑って言った。
「海馬くんも甘い卵焼き好きなんだよ」
「・・兄サマが?」




「やっぱ兄弟だね」



遊戯はそう言って笑った。




ほんの少し前までは気遣われるのが、嫌だった。
兄のように、なりたかったから。
でも今は違う。
昔の自分が、兄が心配だったように
みなも自分を心配してくれているのだ。


家族だから。


昨日のうちに海馬に午後からでいいと言われた。
だから言い返した。
「自分だって休んで無いじゃん」
それから子供っぽくおどけて付け加える。



「たまには休んで家族サービスしないと<遊戯>に遊戯を盗られちゃうぜぃ?」



そしてもう一言付け加えると海馬は唸った。
「あいつ、兄サマより大きくなるんだ、って牛乳ばっかり飲んでるよ」

言いたいことを飲み込まなくていい。
だって

家族なんだから。


 

***************


 

「はい」
「サンキュ」
遊戯に渡された弁当の包みをモクバは礼を言って受け取りました。
「今日、ボクたちお休みだからモクバくんのお弁当箱買いに行ってくるね」
「ああ」
モクバは遊戯の言葉に頷きました。
「ありがとな、遊戯」
モクバは自分を気遣ってくれる大切な家族に、心からお礼を言いました。


週明けからは大きさの違うお弁当箱たちに、同じ甘い玉子焼きが入ることになりそうです。



この玉子焼きが「海馬家」の味です。

 


海馬家は今日も平和です。

 

 

 

END

 

 




モクバちゃんの分までお弁当を作ることになりました(^_^)
すっかり家族です。
モクバちゃんは絶対いいオトコになると思う。

チビちゃんは牛乳を沢山飲んでます
「はやくおおきくなってかいばをやっつけてあいぼうをおよめさんにする」
のが目標です(^_^)

 

2005.07.07

 

 

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