武藤遊戯は高校を卒業すると思い切り良く海馬家へ嫁に行きました。
嫁、という表現は世間一般的には正しくないかもしれません。
武藤遊戯という人物は、小柄で細く大きな瞳が印象的な可愛らしい容姿を持ってはいましたがまぎれもなく「男の子」でしたから。
ですが海馬瀬人と武藤遊戯は「恋人同士」でありましたので海馬邸で一緒に暮らしだしたということは結婚したも同然ということでしょう。
男同士ではありましたが。
そうして二人の間に待望の第一子が生まれました。
何度も繰り返しますが二人とも男です。
普通に考えれば子供が出来るわけなどありません。
でもこの場合そんなことは些細なことなのです。
気にしてはいけません。
ここで問題なのはその生まれた男の子が遊戯が<もうひとりのボク>と呼んでいた古代エジプトの王様『アテム』の生まれ変わりだった、ということでした。
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「兄サマ、帰ろうぜィ」
社長室の扉を開けてモクバが言った。
「今日は<遊戯>がうさぎを見るからって張り切ってたろ」
そう言えば十五夜でお月見をするから早く帰って来いといっていた気がする。
瀬人は目をあげて時計を確認した。
「ああ、もうそんな時間か」
手に持っていた書類にすばやく目を通しながら瀬人はモクバに告げる。
「待っていろ、今終わらせる」
言いながら承認の印を押し、机の上を手早く片付けて、パソコンの電源を落す。
見ていたモクバがくすくすと笑った。
「何だ?」
不審げに問う瀬人にモクバは笑いながら答える。
「兄サマ、昔は何だかんだ言ってなかなか仕事から離れようとしなかったのに」
モクバは続けた。
「ウチへ帰るのが楽しくなった?」
ウチへ帰ルノガ楽シクナッタ?
海馬家の養子になって、連れてこられたあの屋敷。
昔はあの家が嫌いだった。
暗く
冷たく
まるで巨大な
牢獄のようで・・・・
今、あの家に暗さなど感じられない。
「お帰りなさい」
そう言って笑顔を向けてくれる者が居るから。
『家』とは建物の名称ではないのだ。
家族が住まう場所。
「ウチへ帰るのが楽しくなった?」
「そうだな」
モクバは兄の返答に嬉しそうに笑った。
「兄サマ、マイホームパパみたいだぜィ」
「モクバ・・!」
瀬人の伸ばした手を避けてモクバは笑いながら先に送迎車に乗り込んだ。
「まったく・・」
モクバの言葉を否定することも出来ず、苦笑しながら瀬人は自分も車上の人となった。
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そうして瀬人とモクバは家族の待つ『家』に帰りました。
今日は皆で月のうさぎを愛でる予定です。
海馬家は今日も平和です。
END
社長とマイホームパパって言葉は
すっげ遠いですね!(笑)
そして十五夜は10月だった・・
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宿花(閉鎖されました)
2006.09.25