武藤遊戯は高校を卒業すると思い切り良く海馬家へ嫁に行きました。
嫁、という表現は世間一般的には正しくないかもしれません。
武藤遊戯という人物は、小柄で細く大きな瞳が印象的な可愛らしい容姿を持ってはいましたがまぎれもなく「男の子」でしたから。
ですが海馬瀬人と武藤遊戯は「恋人同士」でありましたので海馬邸で一緒に暮らしだしたということは結婚したも同然ということでしょう。
男同士ではありましたが。
そうして二人の間に待望の第一子が生まれました。
何度も繰り返しますが二人とも男です。
普通に考えれば子供が出来るわけなどありません。
でもこの場合そんなことは些細なことなのです。
気にしてはいけません。
ここで問題なのはその生まれた男の子が遊戯が<もうひとりのボク>と呼んでいた古代エジプトの王様『アテム』の生まれ変わりだった、ということでした。
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朝から何処かへ出掛けていて帰ってきたと思ったら庭で何やら騒いでいる。
何をしているのかと覗きに行くと大量の鯉が目に入った。
色とりどりの鯉のぼりが空に泳ぐ。
「何だこれは」
「あ、海馬くん」
「かいば」「せと」
庭に居た遊戯たちがわらわらと瀬人とモクバのそばに寄ってくる。
この鯉のぼりをあげるのにじたばたと騒いでいたらしい。
確かにこれだけの数があればあげるのも一苦労だろう。
しかしこれだけの量を何処から持ち出してきたのか。
確かに海馬邸にも立派な鯉のぼりはあった。
ここ数年仕舞い込んだきり出していなかったが。
だがこんな数は無かった筈だ。
疑問符を浮かべた瀬人とモクバのその疑問には遊戯が答えてくれた。
「ボクのもウチから持ってきたんだ」
なるほど、午前中出掛けたのは実家に戻っていたものらしい。
<遊戯>と乃亜は空を舞う鯉のぼりを見上げて、楽しそうに歌を歌っている。
お−きぃマゴイはおとおさん。
そのうちに歌のようにあっちが誰でこっちが誰で、と役を振り始めた。
「あれがかいば」
「こっちがあいぼう」
モクバに、じいちゃんに、ままさんに。
たくさんの鯉のぼりを一つづつ指差しては決めていく。
「あれがじょうのうちくん」
「・・何故そこで凡骨の名が出てくる」
憮然と瀬人が言うのに遊戯が笑った。
「たくさん家族と友達が居た方が、鯉のぼりだって嬉しいよ」
家族 と 友達。
そんなもの要らないと思っていた。
だけど。
欲しかったものは全部、此処に居て笑っている。
自分の側に。
「まあ凡骨も混ぜてやってもいい」
それでも城之内の名が出るのは何だか面白くなくて、不満そうな声になる。
その様子を見て遊戯がまた笑った。
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「そういえば五月人形もあったよね、兄サマ。あれも出そうぜィ」
モクバが思い出したようにそう言うと、それに続けて遊戯が言いました。
「そういや早めに出して、終わったらさっさと片付けないと結婚が遅れるって言うよね」
「・・・それは雛人形だろう」
遊戯の言葉に瀬人が冷静に突っ込みを入れます。
「・・・あれ?」
誤魔化すように笑う遊戯に<遊戯>が助け舟のつもりなのか大きな声で言いました。
「あいぼうはオレがおよめさんにするからだいじょうぶだぜ!」
「キサマ・・遊戯はオレのものだ」
かなり本気の口喧嘩を始めた<遊戯>と瀬人の後ろでモクバが小さく言いました。
「兄サマ・・大人気ないぜィ」
呆れた口調とは裏腹にモクバの表情は楽しげでした。
海馬家は今日も平和です。
END
大人気ない社長(笑)
ちびちゃんの夢は早く大きくなってあいぼうをお嫁さんにすることです。
本気です。
お題はこちらから
宿花(閉鎖されました)
2007.05.19