武藤遊戯は高校を卒業すると思い切り良く海馬家へ嫁に行きました。
嫁、という表現は世間一般的には正しくないかもしれません。
武藤遊戯という人物は、小柄で細く大きな瞳が印象的な可愛らしい容姿を持ってはいましたがまぎれもなく「男の子」でしたから。
ですが海馬瀬人と武藤遊戯は「恋人同士」でありましたので海馬邸で一緒に暮らしだしたということは結婚したも同然ということでしょう。
男同士ではありましたが。
そうして二人の間に待望の第一子が生まれました。
何度も繰り返しますが二人とも男です。
普通に考えれば子供が出来るわけなどありません。
でもこの場合そんなことは些細なことなのです。
気にしてはいけません。
ここで問題なのはその生まれた男の子が遊戯が<もうひとりのボク>と呼んでいた古代エジプトの王様『アテム』の生まれ変わりだった、ということでした。
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「オニはそと!!」
玄関を開けたとたん、豆が飛んできた。
虚を付かれて其れをまともに被ってしまった瀬人は、頭からパラパラと豆を落としながら怒気を滲ませて言った。
「不意打ちとは卑怯だぞ、<遊戯>!!」
瀬人の言葉など聞いてはいない<遊戯>は、何故かエントランスに置いてあった空き缶をコーンと蹴り上げる。
そしてくるりと振り返ると言った。
「かいばがオニだぞ!ちゃんと100かぞえろよ!」
言うが早いか、ぱっと踵を返し、<遊戯>は乃亜を連れて2階への階段を上る。
「待て<遊戯>」
素早い動きに止める間もない。
今日は節分、豆まきであった。
鬼役をやらされるであろうことは予想の範囲内だったが、思っていたのとはかなり違う。
何故節分の鬼が100数えなければならないのだ。
「大丈夫兄サマ?」
瀬人の後ろから入ってきたモクバが豆を払ってやりながらそう聞いた。
「お帰りなさい、海馬くん」
其処へ遊戯が升に入れた豆を持って出てきた。
この豆を用意していて出迎えが遅れたらしい。
「ごめんね、いきなり」
「何なんだこれは」
その升を海馬に渡しながら遊戯が説明する。
「幼稚園でも豆まきしたらしいんだけど、何か途中から鬼ごっこっていうか、缶蹴りとかくれんぼを混ぜたような遊びになったらしくってさ。とっても楽しかったみたいで『かいばともまめまきする!』ってきかないもんだから」
成程、それで缶があるわけだ。
瀬人はさっき<遊戯>が蹴った缶を拾い上げた。
「疲れてるのに、ごめんね。でも少しだけ遊んであげてくれないかな」
遊ぶのはかまわないが、何も缶蹴りを今こんな時間にやらなくても。
普通の豆まきをすべきではないか。
そう思った瀬人に上から声が降ってきた。
「にげたってかまわないぜ、かいばぁ」
踊り場の手すりの間から覗くようにして<遊戯>が言う。
「ただし、これからあいぼうはずっとオレといっしょにねてもらうことにするからな!おまえはひとりでさみしくねるがいいさ」
ぶち。
何かが切れる音がした。
「この海馬瀬人に喧嘩を売ったことを後悔させてくれるわ!」
一緒に寝るって言ったって添い寝なのだが、<遊戯>の挑発はかなり効果的だった。
瀬人は高らかに笑うと持っていた缶を素早く床に置いた。
その缶に片足を乗せてすごい勢いで数を数え始める。
それ!とばかりに<遊戯>が乃亜を連れて駆け出した。
数分後海馬邸は走り回る音と豆をまく音で大変賑やかになった。
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「あー兄サマ、変なスイッチ入っちゃったなぁ」
モクバが苦笑混じりに言いました。
「うん、でも楽しそう」
「まあな」
2階からは瀬人の高笑いに混じって子供たちのはしゃぐ声も聞こえます。
遊戯とモクバは顔を見合わせて、同じように笑いました。
「じゃあ普通の豆まきはオレ達で済ませとくか?」
モクバが升を持って言いました。
「そうだね」
遊戯も其れに続きます。
「鬼は外!」
「福は内!!」
2階の鬼ごっこはまだ続いているようです。
本当は呼び込まなくてももう福はすでに家の中にあるのです。
溢れるくらい、たくさん。
海馬家は今日も平和です。
END
そんな豆まき海馬家(^_^)
小さい子相手でも本気モード社長(笑)
大人げないけど楽しそうです。
闇っ子はさすが社長のノセ方を知っているってことで(^_^)
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宿花(閉鎖されました)
2008.02.24