武藤遊戯は高校を卒業すると思い切り良く海馬家へ嫁に行きました。
嫁、という表現は世間一般的には正しくないかもしれません。
武藤遊戯という人物は、小柄で細く大きな瞳が印象的な可愛らしい容姿を持ってはいましたがまぎれもなく「男の子」でしたから。
ですが海馬瀬人と武藤遊戯は「恋人同士」でありましたので海馬邸で一緒に暮らしだしたということは結婚したも同然ということでしょう。
男同士ではありましたが。
そうして二人の間に待望の第一子が生まれました。
何度も繰り返しますが二人とも男です。
普通に考えれば子供が出来るわけなどありません。
でもこの場合そんなことは些細なことなのです。
気にしてはいけません。
ここで問題なのはその生まれた男の子が遊戯が<もうひとりのボク>と呼んでいた古代エジプトの王様『アテム』の生まれ変わりだった、ということでした。
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「かいばー、いいだろう?」
久しぶりの休日、珍しくのんびりと居間のソファで新聞を読んでいた瀬人の前へ走ってきた<遊戯>は両手を拡げてくるり、と回って見せた。
新しいコートとマフラー。
手袋も新品のようだ。
そういえば遊戯が、子供はすぐに大きくなっちゃうね、と言っていたのを思い出す。
新調したのだろう。
「新しいのか。よかったな」
そう言ってやると<遊戯>は得意げに笑った。
「のあとおそろいだぞ」
後からやってきた乃亜も先ほどの<遊戯>と同じようにくるりと回ってみせる。
マフラーと手袋は<遊戯>と色違いだ。
<遊戯>は言った。
「これからあいぼうとモクバとでーとだから、かいばはるすばんな」
「デートとは聞き捨てならんな」
瀬人はそう言って立ち上がった。
「ただの散歩だよ」
事の顛末を聞いたモクバは大笑いしてそう言った。
公園を散策しながら、尚も笑い続ける。
「ホント<遊戯>は兄サマを乗せるのが上手いぜィ」
「乗せられてやったんだ」
瀬人はふん、と鼻を鳴らした。
チビ共は落ち葉の中を走り回り、遊戯もそれを追いかけて一緒にはしゃいでいる。
長閑なものだ。
ふと、落ち葉の中に手袋を見つけた。
この色は乃亜の物だ。
「はしゃぎすぎて落としたのに気がつかなかったらしいな」
走り回って暑くなり、ポケットにでも入れておいて落としたのだろう。
拾う瀬人を見ながらモクバが言った。
「そういやオレも昔手袋無くしてさ、兄サマが片っぽ貸してくれたことあったよね」
懐かしそうにモクバが続ける。
「手袋無い方の手は繋いで・・あったかくて嬉しかったなぁ」
そんなこともあった。
繋いだ手がやけに温かかったことをモクバと同じように思い出す。
あの頃、瀬人の家族は、モクバだけだった。
「あいぼう、のあ、てぶくろなくなったって」
拾い物を届けてやろうと、そう広くもない公園でちびと遊戯を探す。
苦も無く、すぐに見つけることが出来た。
手袋がなくなったことに気がついたらしい。
<遊戯>が遊戯に訴えている。
その手は乃亜と繋がれていて。
乃亜のもう片手には<遊戯>の手袋が。
「同じことしてるなぁ。さすが親子、そっくりだぜィ」
モクバが楽しそうに言った。
楽しそうなモクバに、わざと面白くもなさそうに答える。
「よくそう言われる」
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「大丈夫だよ、乃亜くん。一緒に探そうね」
乃亜と<遊戯>に声をかけていた遊戯がこちらに気がついたので、瀬人は持っていた手袋をひらひらと振ってみせました。
そうして瀬人は駆け寄ってきた<遊戯>と乃亜に、拾った手袋を片方ずつはめてやりました。
海馬家は今日も平和です。
END
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海馬家。
ほのぼの家族(^−^)
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宿花(閉鎖されました)
2008.11.29