■墨で汚れた■

■十二ヶ月を巡るお題■

墨で汚れた(海馬家)





海馬家とは

遊戯ちゃんと社長が夫婦で(にょたではないです)
長男は闇様で次男が乃亜王子というパラレルシリーズです。
基本は海表。
詳しくは此処から




武藤遊戯は高校を卒業すると思い切り良く海馬家へ嫁に行きました。
嫁、という表現は世間一般的には正しくないかもしれません。
武藤遊戯という人物は、小柄で細く大きな瞳が印象的な可愛らしい容姿を持ってはいましたがまぎれもなく「男の子」でしたから。
ですが海馬瀬人と武藤遊戯は「恋人同士」でありましたので海馬邸で一緒に暮らしだしたということは結婚したも同然ということでしょう。
男同士ではありましたが。
そうして二人の間に待望の第一子が生まれました。
何度も繰り返しますが二人とも男です。
普通に考えれば子供が出来るわけなどありません。
でもこの場合そんなことは些細なことなのです。
気にしてはいけません。
ここで問題なのはその生まれた男の子が遊戯が<もうひとりのボク>と呼んでいた古代エジプトの王様『アテム』の生まれ変わりだった、ということでした。

 

 

***************

 


 

「海馬くん、その新聞も読み終わったら頂戴」
遊戯の声に瀬人は顔を上げた。
たくさんの新聞紙を抱えた遊戯はドアの向こうからそう言うと、廊下を奥へと消える。
受け取って行く気はないらしい。
奥の部屋は子供たちが遊び部屋として使っている。
またチビ共と何か始めるらしい。
読み終わった新聞を持ってこいと言うことは、瀬人にもそれに参加しろという誘いなのだろう。
子供たちとだけ遊ぶつもりならば、この新聞を受け取っていけばいい話なのだから。
「やれやれ」
瀬人は新聞を畳んで右手に持つと、ソファから腰を上げた。
口調は面倒そうだが、表情はそれを裏切っている。
廊下の突き当たり、遊び部屋の扉を開けると、床一面新聞紙だらけだった。
新聞紙の絨毯。
一体何を始めたのだか。
子供たちと新聞を敷いていた遊戯が瀬人の処へやってきて言った。
「ありがとう、海馬くん」
瀬人の持っていた新聞紙受け取って<遊戯>にこれも敷いてと指示を出す。
瀬人は言った。
「何だこれは」
「書き初めをしようと思って」
書き初め。
正月らしい行事ではある。
「床汚すと掃除がめんどくさいなぁと思ったから。新聞紙敷いたんだ」
子供のことだ、どうせ墨をこぼしたりするだろう。
新聞紙はその予防らしい。
「成程」
瀬人は納得して頷いた。
新聞を敷き終わった子供たちは、銘々半紙を広げて、自由に何やら書きだしている。
遊戯は嬉しそうに笑った。
「字とか、絵とか、そういう書いたものとか、写真とか・・いっぱい残しておきたいんだ」
其れはかつて<遊戯>との別れを経験したからこその言葉なのだろう。
二心同体という特殊な環境で、<遊戯>の写真や書いたものなどはほとんど残らなかった。
「形ある物で、か」
瀬人の言葉に遊戯は頷いた。
「うん、『形ある物』って後で見たときに、その時のこと思い出すじゃない?だから」
遊戯は自分の胸を指してみせた。


「ちゃんとココにも残るでしょ」


見えるもの
見えないもの
見えなくても確かに残っていくもの


そういうものをもっともっとたくさん増やしていきたいのだと遊戯は笑った。
「人間ってほんと欲張りだなぁって思うよ」
神妙な顔でそう言う遊戯に瀬人は笑う。
「そういう欲なら悪くはないだろう」



その欲はたくさんの笑顔をこの家に連れてくるのだから。





***************





「『あいぼうとけっこんする』」
<遊戯>はそのように紙に書いたようです。
残念ながら一部鏡文字になっていたりしていますが。
「貴様七夕と間違えているのではないか?」
<遊戯>の隣で筆を握っていた瀬人が言いました。
「ほら、また子供と張り合わない、兄サマ」
遅れてやってきたモクバが、乃亜の書くのを手伝ってやりながら、慣れた顔で瀬人を窘めます。



それを見ながら遊戯は『家内安全』と書きあげたのでした。



海馬家は今日も平和です。




END









海馬家。
皆で書き初め。


お題はこちらから
宿花(閉鎖されました)

2009.01.31

 

 

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