武藤遊戯は高校を卒業すると思い切り良く海馬家へ嫁に行きました。
嫁、という表現は世間一般的には正しくないかもしれません。
武藤遊戯という人物は、小柄で細く大きな瞳が印象的な可愛らしい容姿を持ってはいましたがまぎれもなく「男の子」でしたから。
ですが海馬瀬人と武藤遊戯は「恋人同士」でありましたので海馬邸で一緒に暮らしだしたということは結婚したも同然ということでしょう。
男同士ではありましたが。
そうして二人の間に待望の第一子が生まれました。
何度も繰り返しますが二人とも男です。
普通に考えれば子供が出来るわけなどありません。
でもこの場合そんなことは些細なことなのです。
気にしてはいけません。
ここで問題なのはその生まれた男の子が遊戯が<もうひとりのボク>と呼んでいた古代エジプトの王様『アテム』の生まれ変わりだった、ということでした。
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「かいば、きょうはくりすますだぞ。はやくかえってこいよ」
出勤の準備をする瀬人の足元に<遊戯>が纏わりつく。
幼稚園は先日から冬休みに入ったらしいが、あいにく社会人はまだまだ仕事だ。
しかも海馬コーポレーションはゲームなどを取り扱っている会社だ。
クリスマス時期はそれなりに忙しい。
口ばかりの約束をするつもりはないので瀬人は正直に言った。
「早く帰れるかどうかわからん」
<遊戯>は不満そうに、クリスマスだぞ、ウチに皆呼んでパーティすんだぜ、と繰り返す。
珍しいことだ。
遊戯が日頃言い聞かせている為か、普段はもう少し聞きわけが良い。
「くりすますにひとりでしごとなんて、かいばはさみしーな、かわいそーだな、ってじょうのうちくんもいってたぜ」
「やかましいわ」
大きめの声を出すと<遊戯>は吃驚したような振りで大袈裟に騒ぎながら階段の所までさっと逃げた。
其処で振り返る。
「はやくかえってこいよな、かいば!」
駄目押しだ。
階段を駆け上って行ってしまった<遊戯>を見送って、やれやれ、と瀬人は溜息をついた。
何日も前から今日のクリスマスパーティを楽しみにしているのは知っていたが、其処に自分は居なくとも、別に構わないのではないかと思う。
親しい友人たちが集まるのだし。
奥から弁当を持って出てきた遊戯が、溜息を付く瀬人を見てくすくす笑った。
今のやり取りを見ていたらしい。
「まったく口を開けば城之内くん城之内くんと・・あの凡骨め、余計なことばかり吹き込みおって」
「えー、そんなことないよ。あれ、海馬くんってばもしかして城之内くんにヤキモチ?」
瀬人の不貞腐れた口調に、遊戯は楽しげに顔を覗き込む。
「妬いてなどおらん」
別に、妬いてなどいない。
ただ、<遊戯>が城之内と会っているということは、保護者たる遊戯も一緒について行っているということだ。
其れが少し面白くないだけだ。
「でもホントに出来たら早く帰って来てくれると嬉しいな」
内緒だけど、と前置きをして遊戯は続ける。
「もう一人のボク、海馬くんにプレゼントがあるんだよ」
「プレゼント?」
「うん、力作だよ」
聞き返す瀬人に遊戯は頷いた。
そういえば、子供たちの遊び部屋として使っている奥の部屋に、幼稚園で作ったという紙粘土のサイレントマジシャンが飾ってあった。
遊戯の為に作ったのだそうだ。
遊戯が絶賛した其れを、瀬人も幼稚園児にしてはなかなかの出来だと褒めた覚えがある。
その話を遊戯が<遊戯>にしたらしく、しばらく機嫌が良かった。
「だが、プレゼントはくじで交換するのだろう?」
それこそ城之内の所へいってしまうのではないか。
そう思って瀬人が訊ねると、遊戯は悪戯でも思いついたかのような顔で、笑って言った。
「其処は」
「海馬くんのデスティニードローで頑張ってあててよ」
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「ボクも早く帰って来てくれたら嬉しいな」
其処まで言われては、瀬人も早く帰ってくるしかありません。
意外に子煩悩だの、愛妻家だの、マイホームパパだのいう、最近の噂に拍車をかけることになるのだな、と思いつつ、瀬人は会社へ向かうのでした。
海馬家は今日も平和です。
END
プレゼントは紙粘土製青眼。
もちろん引き当てます(^−^)
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宿花(閉鎖されました)
2009.12.20