武藤遊戯は高校を卒業すると思い切り良く海馬家へ嫁に行きました。
嫁、という表現は世間一般的には正しくないかもしれません。
武藤遊戯という人物は、小柄で細く大きな瞳が印象的な可愛らしい容姿を持ってはいましたがまぎれもなく「男の子」でしたから。
ですが海馬瀬人と武藤遊戯は「恋人同士」でありましたので海馬邸で一緒に暮らしだしたということは結婚したも同然ということでしょう。
男同士ではありましたが。
そうして二人の間に待望の第一子が生まれました。
何度も繰り返しますが二人とも男です。
普通に考えれば子供が出来るわけなどありません。
でもこの場合そんなことは些細なことなのです。
気にしてはいけません。
ここで問題なのはその生まれた男の子が遊戯が<もうひとりのボク>と呼んでいた古代エジプトの王様『アテム』の生まれ変わりだった、ということでした。
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喉が渇いたので何か飲もうと、モクバが階下に降りて行くと、リビングの方から遊戯たちが何やら話している声が聞こえてきた。
モクバは行き先を変更してリビングをそっと覗く。
猫を囲んで遊戯たちが何やら話している。
「あいぼう、ねこねてるぞ」
「そうだね、気持ち良さそうだねえ」
大きな窓のある、日当りのいいリビングで猫は2匹で固まって昼寝を楽しんでいた。
乃亜も一緒になって転がっている。
家族勢ぞろい、と言いたいところだが、瀬人だけが残念ながら仕事で居ない。
だが、もうすぐ帰ってくるはずだった。
「きっと今日は此処が一番ウチで暖かい『イイ場所』なんだよ」
「イイばしょ?」
<遊戯>は首を傾げる。
遊戯はその問いに頷いて続けた。
「猫はね、寒い時は一番温かい所、暑い時は一番涼しい所、そういう処を見つけるのが上手なんだって」
「へーすごいな!」
感心する<遊戯>に遊戯はペロッと舌を出してみせる。
「じいちゃんの受け売りだけどね」
「じいちゃんもあいぼうもすごい」
そう言って<遊戯>は遊戯にぎゅうと抱きついた。
「でもオレだってすごいんだぜ、あいぼう!オレも『イイばしょ』をしってるぞ!」
「え、何処?此処じゃないの?」
「いまはここ!」
謎掛けのような<遊戯>の言葉に今度は遊戯が首を傾げる。
モクバはぷっと噴き出した。
<遊戯>の言う『イイ場所』が何処のことかわかってしまったからだ。
わからないのは、本人だけだ。
「それって、兄サマも知ってる『イイ場所』だろ?」
そう声をかけると<遊戯>はにやと笑った。
アタリ、なのだろう。
<遊戯>の言う『イイ場所』とは、遊戯の側。
世界中のどこよりも温かくて、安心できる場所。
相変わらずわけがわからない、と言った様子の遊戯に、モクバは提案した。
膝をついてそっと乃亜の髪を撫でる。
「此処で皆で昼寝しようぜィ」
「ああ、いいね!気持ち良さそう」
一も二もなく遊戯は賛成して、タオルケットを取りに行った。
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うとうと、4人と2匹は暖かい日だまりの中でまどろみます。
幸せな眠りです。
こんな所で寝て風邪でも引いたらどうすると、大きな優しい手が起こしてくれるのを待ちながら。
海馬家は、今日も平和です。
END
世界で一番居心地のいい場所。
たぶん乃亜王子は遊戯ちゃんよりモクバちゃんだけどね(^−^)
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宿花(閉鎖されました)
2009.10.25