武藤遊戯は高校を卒業すると思い切り良く海馬家へ嫁に行きました。
嫁、という表現は世間一般的には正しくないかもしれません。
武藤遊戯という人物は、小柄で細く大きな瞳が印象的な可愛らしい容姿を持ってはいましたがまぎれもなく「男の子」でしたから。
ですが海馬瀬人と武藤遊戯は「恋人同士」でありましたので海馬邸で一緒に暮らしだしたということは結婚したも同然ということでしょう。
男同士ではありましたが。
そうして二人の間に待望の第一子が生まれました。
何度も繰り返しますが二人とも男です。
普通に考えれば子供が出来るわけなどありません。
でもこの場合そんなことは些細なことなのです。
気にしてはいけません。
ここで問題なのはその生まれた男の子が遊戯が<もうひとりのボク>と呼んでいた古代エジプトの王様『アテム』の生まれ変わりだった、ということでした。
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「今日はずいぶん寝坊介だな、ウチのチビ共は。いつもは休日ともなれば普段より早起きして騒ぎだすというのに」
食後の珈琲を飲みながら、瀬人は言った。
静かな休日の朝が不満なわけでは決してない。
少し物足りないだけだ。
「昨日は夜、テレビを見ていたから、起きられないのかもね。そろそろ起こしに行かないと」
そんな瀬人の様子に遊戯はくすくす笑いながら言う。
瀬人が何を考えているかなど、お見通しのようだ。
そういえば、昨日は世界的にも有名な監督のアニメ映画をテレビで放映していた。
此れは見せたい、と言い張ったのは実は遊戯だった。
その遊戯は子供が居ない隙に、とでも思ったのか、珈琲を飲む瀬人の向かい側で写真を整理している。
デジカメで撮ってプリントアウトしたもの、家から持ってきた祖父のモノだったらしい古い一眼レフで撮ったもの、と様々だ。
「お前は写真が好きだな」
うん、と大きく頷いた遊戯は言葉を続けた。
「もう一人のボクと一緒の写真って前は撮れなかったしね」
それはそうだ。
遊戯と<遊戯>は同じ一つの身体を共有していた。
本人達は会話も出来たらしいが、本来一人が表側に出て身体を使っている間は、もう一人は身体の内側で大人しくしているしかない。
同時に表に出て、一緒に写真を撮ることなど不可能だ。
それも熱心に写真を撮りたがる理由の一つなのだろう。
「そういえば、最初からそうだったな」
<遊戯>が生まれた時も写真を撮った。
そのことを思い出して瀬人が言うと遊戯は笑った。
「あの時海馬くん、なんて言ったか覚えてる?」
何か、妙なことでも言っただろうか。
其処は思い出せずに、遊戯の答えを待つ。
「笑え、って言ったんだよ」
「コイツは、お前の泣き顔が見たくて戻ってきたわけではない、って」
ああ、そうだった。
腕の中に戻ってきた<遊戯>を抱えて、遊戯は泣いた。
もう会えないかと思っていた<遊戯>との再会。
嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。
他にどうしたらいいかわからない、という風にただただ涙を零す遊戯。
それでも写真を撮って欲しい、と頼む遊戯に、瀬人は言ったのだ。
「では笑え」と。
「それで、思ったんだ。此れから沢山、辛いことも困ったことも怒ることもあるだろうけど、それ以上にもっと沢山笑っていようって」
皆で一緒に沢山笑おうって。
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「あいぼう、かいば、おはよお」
寝ぼけ眼を擦りながら、<遊戯>が起きてきました。
乃亜の手を引いています。
「あいぼう、のあ、おしっこって」
遊戯はぱっと立ちあがりました。
「あ、はいはい!ごめんね乃亜くん。そろそろ起こさなきゃと思ってたんだけど」
遊戯は<遊戯>の頭を撫でてから乃亜を抱き上げます。
「ありがと、もう一人のボク。連れてきてくれて。さすがお兄ちゃんだね!」
照れくさそうに笑う<遊戯>を見ながら、今日も騒がしい一日が始まるのだな、と瀬人は思いました。
沢山、笑う為に。
海馬家は今日も平和です。
END
はじめてのお写真の話でした。
遊戯ちゃんが泣いてたら
社長は不機嫌になると思う(^−^)
お題はこちらから
capriccio
2010.04.25