■夏の幻想■

■一年十二題
夏の幻想(海馬家)





海馬家とは

遊戯ちゃんと社長が夫婦で(にょたではないです)
長男は闇様で次男が乃亜王子というパラレルシリーズです。
基本は海表。
詳しくは此処から




武藤遊戯は高校を卒業すると思い切り良く海馬家へ嫁に行きました。
嫁、という表現は世間一般的には正しくないかもしれません。
武藤遊戯という人物は、小柄で細く大きな瞳が印象的な可愛らしい容姿を持ってはいましたがまぎれもなく「男の子」でしたから。
ですが海馬瀬人と武藤遊戯は「恋人同士」でありましたので海馬邸で一緒に暮らしだしたということは結婚したも同然ということでしょう。
男同士ではありましたが。
そうして二人の間に待望の第一子が生まれました。
何度も繰り返しますが二人とも男です。
普通に考えれば子供が出来るわけなどありません。
でもこの場合そんなことは些細なことなのです。
気にしてはいけません。
ここで問題なのはその生まれた男の子が遊戯が<もうひとりのボク>と呼んでいた古代エジプトの王様『アテム』の生まれ変わりだった、ということでした。

 

 

***************

 


 

遊戯に置いていかれて<遊戯>はしょんぼり落ち込んでいた。
朝早くに母親から、祖父がぎっくり腰になったので病院へ連れて行くのを手伝って欲しいとSOSが入ったのだ。
<遊戯>はもちろん祖父ちゃんが心配だ、一緒に行くと主張したのだが、幼児が付いて行って何が出来るわけでもない。
却って足手纏いだろう。
幸い、今日はモクバも休日だったので、<遊戯>も乃亜も自分が面倒みているから、と言って遊戯を送り出したのだった。
そんなわけで大好きな遊戯と離れて、しょぼくれていた<遊戯>を宥めすかして、今は乃亜と一緒にお絵描きに興じているわけである。
ようやくご機嫌も直ってきたようだ。
「おれはいっぱいぎゅうにゅうをのんで、かいばよりおおきくなるんだぜ」
成程、今<遊戯>が画用紙いっぱいに描いているものは、大きくなった自分らしい。
遊戯の家系はそんなに身長の高くなる遺伝子を持っていないようだから、思い通りになるとは限らないが、跳ねた髪の毛が己の特徴を良くとらえている。
上手いな、と褒めれば嬉しそうに笑った。
のってきた<遊戯>の次の紙に描かれたのは、大きくなった自分と遊戯らしかった。
同じようなトゲトゲの髪型が並ぶ。
「それでかいばをやっつけて、あいぼうとけっこんするんだ」
小さい頃から繰り返された<遊戯>の夢である。
モクバも何度も聞いているので、うん、と頷く。
実際は無理だと知っているが、其れを<遊戯>に言う気はなかった。
この夢が、幼い子供特有の「大きくなったらお母さんと結婚するんだ!」とは少し違うものだと知ってはいたが。
乃亜は紙いっぱいにぐりぐりとクレヨンを動かしている。
此れはこれで楽しいらしいが、床にまで描かれないように気を付けなければいけない。
乃亜に気を取られていたモクバが、ふと見ると、先ほどの紙に<遊戯>は更に人物を足していた。
「此れ、誰?」
聞かなくても本当はわかっていた。
<遊戯>の絵は実によく特徴を捉えているから。
「かいばともくばと、のあ」
思った通りの答えに、しかしモクバは首を傾げる。
海馬をやっつけて相棒と結婚する。
結婚した絵、なのだと思っていた。
だったら其処に瀬人が居るのはおかしい。
しかも<遊戯>にやっつけられた状態の瀬人の絵、と言う訳でもなく、<遊戯>と遊戯を囲んで皆楽しげに笑っている。
疑問符を浮かべるモクバに<遊戯>は解説した。
「だってあいぼうとおれがいっしょにどっかいっちゃったら」


「さみしいだろ?」


寂しい。

モクバに家族をくれたのは確かに遊戯だった。
義父が死んで、何処か変わってしまった瀬人を、元の自分に、優しい兄に戻してくれたのも遊戯たちだった。
モクバの手に乃亜を抱かせてくれたのも。
此処に、自分の居場所がある。
施設に居る頃、温かい家庭なんて絵の中の出来事で、自分にはもう触れることは無理だと思っていた。
今は、全部手の中にある。

失いたくない。
其れは確かに本音だ。



しかし、皆が一緒の<遊戯>の絵を見ながらモクバはこそりと思った。
此れって今と変わらない気がする。
失いたくない。
其れは多分<遊戯>の本心でもあるのだろう。

「うん、寂しいぜィ」
だからモクバは寂しいを肯定しておいた。





***************






「ただいまー!」
「あいぼうだ!!」
帰ってきた遊戯の声に<遊戯>は部屋を飛び出して行きました。
出迎えに走ります。
乃亜を抱いてモクバも続きました。
「ごめんね<もう一人のボク>、寂しかった?」
遊戯にぎゅうと抱きついて、<遊戯>は言います。
「もくばとのあがいたからさみしくなかったぜ・・・。ちょっとさみしかったけど」
正直に答える<遊戯>に倣って、モクバも言っておこうと思います。


寂しいから何処にも行かないで欲しい、と。


遊戯は何と答えてくれるでしょうか。



海馬家は、今日も平和です。





END






仲良し家族



お題はこちらから
capriccio

 

2010.09.26

 

 

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