■春になったら、■

■一年十二題
春になったら、(海馬家)





海馬家とは

遊戯ちゃんと社長が夫婦で(にょたではないです)
長男は闇様で次男が乃亜王子というパラレルシリーズです。
基本は海表。
詳しくは此処から




武藤遊戯は高校を卒業すると思い切り良く海馬家へ嫁に行きました。
嫁、という表現は世間一般的には正しくないかもしれません。
武藤遊戯という人物は、小柄で細く大きな瞳が印象的な可愛らしい容姿を持ってはいましたがまぎれもなく「男の子」でしたから。
ですが海馬瀬人と武藤遊戯は「恋人同士」でありましたので海馬邸で一緒に暮らしだしたということは結婚したも同然ということでしょう。
男同士ではありましたが。
そうして二人の間に待望の第一子が生まれました。
何度も繰り返しますが二人とも男です。
普通に考えれば子供が出来るわけなどありません。
でもこの場合そんなことは些細なことなのです。
気にしてはいけません。
ここで問題なのはその生まれた男の子が遊戯が<もうひとりのボク>と呼んでいた古代エジプトの王様『アテム』の生まれ変わりだった、ということでした。

 

 

***************

 


 

会社から帰る車の中で、今日は確か午前中子供たちと爺ちゃんのトコへ行くんだ、と言っていたなと思い出す。
ついでに迎えに行ってやろう。
日曜だと言うのに半日出社する羽目になったが、後の半日は家族サービスに勤めることにしよう。
そんな風に考えている自分に、苦笑した。
我ながら昔と随分変わったものだ。
携帯を取り出して遊戯へと電話を入れる。
すぐに応答があった。
『海馬くん?』
「遊戯、今何処だ?まだ亀のゲーム屋か?」
『良かったごめん海馬くん、お願い!迎えに来て』
切実な遊戯の声に何かあったかと瀬人は眉を顰める。
『ホームセンターに居るんだ』

ホームセンターの駐車場で、乃亜を抱え、<遊戯>の手を握った遊戯の足元には大きな袋がいくつか置かれていた。
土と、プラスチックのプランターがいくつか。
成程、此れを持って帰るのは大変だろう。
しかも遊戯は一緒に居る時は四六時中子供たちと手を繋ぎたがるのだ。
小さい子供は確かに目を離すと何処へ行くかわからないし危ないものだが、それとは別に自分が手を繋いで居たいらしい。
二人の子供は昔、最初に遊戯と係わった当時、実体が無かった。
<遊戯>は遊戯と同体であったし、乃亜はバーチャル世界の住人だった。
手を繋ぎたくても、その手をぎゅっと握ってやりたくても、出来ない。
それが今では可能なことが嬉しくて仕方が無いらしい。
しかし両手に花ならぬ両手に子供、では荷物は持てないだろう。
特に土など重いものはリュックにも入らない。
「ごめん、海馬くん。ありがとう」
買ってから気が付いたんだ、と語る遊戯は、てへへと笑った。
まったく、と一応呆れたように言って瀬人も笑ってみせる。
2人がトランクへ荷物を入れている間に、其処に入っていたチャイルドシートを運転手が取り付けてくれた。
慣れた手つきに少し笑う。
それにしても何故突然土など買おうと思ったのか。
疑問は<遊戯>が解消してくれた。
「かいば、じいちゃんにちゅーりっぷもらったんだぜ」
そう言って目の前に突き出された袋には球根が詰まっていた。
チャイルドシートに収まっても、<遊戯>はチューリップの歌を歌うなどしてご機嫌だ。
「かえってはやくうえよう、あいぼう!」
「うん、そうしようね」
「はるになったらいっぱいさくかな」
<遊戯>の頭の中では満開のチューリップがすでに咲いているようだ。
「待ち遠しいね」
遊戯は言った。


「春が待ち遠しいって、嬉しいね」



別れは、春だった。
いつか離れなければならないと知っていた。
それが辛いはずだとわかっていたから、あの時瀬人はエジプトへ行った。
遊戯は、泣かなかった。
けれどその笑顔はやはり何処か辛そうだったのを覚えている。

 



瀬人は遊戯の頬に手を伸ばし、そっと触れてみる。
遊戯は笑った。
幸せそうな柔らかい笑みに、瀬人も笑った。





***************



「かいばのぶんもあるからな!どっちがはやくそだつか、きょうそうしようぜ!」
「オレも植えるのか」
ややうんざりしてそう返すと、<遊戯>はにやりと笑って言いました。
「やるまえからハイボクせんげんか?かいば。どうしてもまけるのがいやだっていうなら、やめたっていいんだぜ」
「なんだと貴様!」
午後の家族サービスは、皆でガーデニングで決定の様です。



海馬家は、今日も平和です。

 



END







皆で土いじり。当然モクバちゃんも参加です。



お題はこちらから
capriccio

 

2010.12.19

 

 

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