武藤遊戯は高校を卒業すると思い切り良く海馬家へ嫁に行きました。
嫁、という表現は世間一般的には正しくないかもしれません。
武藤遊戯という人物は、小柄で細く大きな瞳が印象的な可愛らしい容姿を持ってはいましたがまぎれもなく「男の子」でしたから。
ですが海馬瀬人と武藤遊戯は「恋人同士」でありましたので海馬邸で一緒に暮らしだしたということは結婚したも同然ということでしょう。
男同士ではありましたが。
そうして二人の間に待望の第一子が生まれました。
何度も繰り返しますが二人とも男です。
普通に考えれば子供が出来るわけなどありません。
でもこの場合そんなことは些細なことなのです。
気にしてはいけません。
ここで問題なのはその生まれた男の子が遊戯が<もうひとりのボク>と呼んでいた古代エジプトの王様『アテム』の生まれ変わりだった、ということでした。
***************
満開の桜の下を歌を歌いながら散策する。
満開、とは言っても少し時期を過ぎてしまった。
花びらはかなり散ってきている。
それでも皆でこうやってちょっと其処まで、といった感覚で出掛けることが大好きな遊戯はその花びらの下をご機嫌で進む。
幼稚園で習ったという童謡を<遊戯>が披露し、遊戯も一緒になって次々と思い付くまま歌っていく。
その後ろから乃亜を抱えて歩いていた瀬人は、つい口を挟んだ。
「其処は『みいちゃん』だろう」
「あれ、そうだっけ。みよちゃんじゃなかった?」
『春よ来い』を歌っていた遊戯がくるり、と振り返って聞き返した。
手を繋ぐ<遊戯>も一緒になって瀬人を見上げる。
「みよちゃんならば『仲良し小道』か『あの子はたあれ』だろう」
「そっか。混ぜちゃってたんだね」
よくあることだ。
人の記憶とは曖昧なものだ。
そのくせ忘れられないこともある。
瀬人は言った。
「語り継いでゆくべきものなのだから、間違えて覚えさせるな」
「そうだね」
遊戯は神妙に頷いた。
「あいぼう、かたりつぐって?」
聞きなれない言葉を<遊戯>が問う。
「うんとね、ボクがキミに教えてあげられる事がまだまだ沢山あるってことだよ」
あれも此れも、ボクが知ってることは全部キミにも伝えるから。
遊戯が言う。
「だから」
「もっと一緒に色んなモノ見たり、色んな事したりしようね!」
ずっと、一緒に。
其れはあの時、遊戯が言えなかった言葉だ。
そうして其れは<遊戯>が発することなく飲みこんだ言葉だ。
本当は、ずっと一緒に居たかった。
ようやく其れを誰憚ることなく、伝えることが出来るようになったのだ。
遊戯にぎゅうと抱き締められて子供は嬉しそうに歓声を上げた。
***************
「でもきっとあと10年もしたらきっと可愛いカノジョが出来ちゃって、ボクよりカノジョ優先になっちゃうんだろうなぁ」
「そんなことない!」
呟かれた遊戯の言葉を<遊戯>は速攻否定します。
「おれはあいぼうひとすじだぜ!あいぼうとけっこんするんだぜ!」
其れは其れで少し問題がある、と瀬人は思いました。
勿論遊戯を他の誰にも譲る気なんてありません。
海馬家は、今日も平和です。
END
海馬家
相変わらずマイホームパパなウチの社長です
みいちゃんとみよちゃんは間違えるよね・・とタイムショックを見て思ったという。
お題はこちらから
Fortune
Fate
2011.04.24