武藤遊戯は高校を卒業すると思い切り良く海馬家へ嫁に行きました。
嫁、という表現は世間一般的には正しくないかもしれません。
武藤遊戯という人物は、小柄で細く大きな瞳が印象的な可愛らしい容姿を持ってはいましたがまぎれもなく「男の子」でしたから。
ですが海馬瀬人と武藤遊戯は「恋人同士」でありましたので海馬邸で一緒に暮らしだしたということは結婚したも同然ということでしょう。
男同士ではありましたが。
そうして二人の間に待望の第一子が生まれました。
何度も繰り返しますが二人とも男です。
普通に考えれば子供が出来るわけなどありません。
でもこの場合そんなことは些細なことなのです。
気にしてはいけません。
ここで問題なのはその生まれた男の子が遊戯が<もうひとりのボク>と呼んでいた古代エジプトの王様『アテム』の生まれ変わりだった、ということでした。
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瀬人は新聞から顔を上げた。
静かすぎる。
天気のいい休日、こんな風に暇そうに新聞なんぞ読んでいたら、普段ならすかさず遊戯がやってきて、散歩がてら皆で買い物に行こうだとか、公園の銀杏が色付いてきたらしいから見に行こうだとか言い出すに決まっているのに。
何時もなら。
遊戯は家族皆で一緒に何かするのが大好きなのだ。
今日は一体どうしたことかと耳を澄ませば、奥の方から微かに声が聞こえる。
一番奥の部屋は<遊戯>達の遊び部屋になっている。
其処に今日は集まっているらしい。
天気もいいのに珍しいことだ。
瀬人は腰を上げた。
「遊戯、居るのか?」
一応軽くノックし、すぐに開けようとすると<遊戯>が飛んで来た。
「かいば、はいるな!」
開きかけた扉を両手で押して、瀬人を入れまいと踏ん張っている。
乃亜までが<遊戯>をサポートしようと一緒に立ちはだかる。
その必死な様子にムッとした。
「何故だ」
「なんででも」
理由を聞くがとにかく入るなの一点張りで埒が明かない。
部屋の中は折り紙などでかなり散らかっていたが足の踏み場もないと言うほどでは無かった。
普段は特にこの部屋に出入り禁止などということもない。
むしろ暇なら一緒に遊べデュエルしろと挑発してくるくらいなのだ。
面白くない。
「今開店準備中なんだよ」
瀬人の後ろから遊戯が言った。
キッチンに居たらしい。
「珈琲淹れたけど飲まない?」
先ほどまで新聞を広げていたリビングへ戻って、ソファに腰を下ろす。
トレイに乗せて遊戯が珈琲を運んで来た。
「準備中とはどういうことだ」
瀬人の言葉に遊戯は笑って言った。
「明後日、何の日でしょう?」
「明後日?」
火曜日。今日が23日だから、25日。
何かあっただろうか。
10・25…其処でようやく回答に辿り着く。
「ボク達の誕生日は覚えててくれるのに何で自分のは忘れちゃうのかなぁ」
海馬くんらしいけどね、と遊戯は笑った。
「お誕生日おめでとう海馬くん」
生まれてきてくれて、ありがとう。
ちょっと早いけど、誰より先に伝えたいから、と遊戯は悪戯っ子のようにペロと舌を出して見せた。
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成程あの部屋を誕生会会場として飾り付けしているようだ、と瀬人は納得しました。
それが終わるまでは覗いて欲しくなかったようです。
「サプライズを狙ってるみたい」
遊戯が笑います。
其処へ<遊戯>たちが様子を見に来ました。
瀬人が怒っているのでは、と心配になったようです。
「…当日は吃驚してあげてね」
こそりと遊戯が耳打ちするのに、瀬人は神妙に頷きました。
海馬家は、今日も平和です。
END
海馬家
社長お誕生日おめでとう!
チビたちが一生懸命お誕生日会の為に飾り付けしてたら可愛いかなと思って。
それにしてもお題「準備中」しかかかってないという…;
まあいつものことですが(^^ゞ
お題はこちらから
Fortune
Fate
2011.10.25