武藤遊戯は高校を卒業すると思い切り良く海馬家へ嫁に行きました。
嫁、という表現は世間一般的には正しくないかもしれません。
武藤遊戯という人物は、小柄で細く大きな瞳が印象的な可愛らしい容姿を持ってはいましたがまぎれもなく「男の子」でしたから。
ですが海馬瀬人と武藤遊戯は「恋人同士」でありましたので海馬邸で一緒に暮らしだしたということは結婚したも同然ということでしょう。
男同士ではありましたが。
そうして二人の間に待望の第一子が生まれました。
何度も繰り返しますが二人とも男です。
普通に考えれば子供が出来るわけなどありません。
でもこの場合そんなことは些細なことなのです。
気にしてはいけません。
ここで問題なのはその生まれた男の子が遊戯が<もうひとりのボク>と呼んでいた古代エジプトの王様『アテム』の生まれ変わりだった、ということでした。
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「今日はいい天気だからお布団を干します!」
子供たちを前にして、遊戯が高らかに宣言した。
「手伝ってくれた子には取り込んだふっかふかのお布団にダイブする権利をあげます」
<遊戯>と乃亜から歓声が上がった。
それぞれさっそく枕カバーを剥がしたりしだす。
いやそれフツーの親は干したばっかの布団にソレやったら怒るんじゃないのか。
物心ついた頃には施設に居たので親に怒られた記憶は無いが、とりあえずモクバはこの家に来てからもそんなことをした事は無かった。
過去形だ。
基本家事をやるのは使用人だが、遊戯はたまに彼らに頼んで仕事を譲って貰い、イベントのようにこうやって布団干し大会を開催するのだ。
モクバも参加者の一人である。
最初は、まるで子供みたいだ、と思った。
モクバは昔から兄を助けるために早く大人になりたいと願っていた。
だから子供っぽい事をするのに少し抵抗があった。
けれど子供たちが、遊戯が、あんまりにも楽しそうにするから、毎回つい其れを忘れてしまう。
この布団干し大会は家事では無く遊戯の考案した『家族で楽しめる遊び』なのだ。
「モクバもいっしょにやろうぜ」
先に布団に飛び込んだ<遊戯>が呼び、乃亜が自分のズボンを引っ張る。
乃亜をほい、と布団へ投げてやって自分も飛び込む。
再び子供たちが嬉しそうに笑い声を上げた。
日向で干してふかふかになった布団からは、春の匂いがした。
暖かい、陽だまりの匂い。
此処でまどろんでいいんだよ、って。
安心してゆっくりおやすみ、って。
そんな風に言ってくれてるような気がする。
其れはもしかしたら遊戯から薫っているのかもしれない、と思った。
幸せの匂い。
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「あいぼう、あっちのふとんでもバフッてしたい」
<遊戯>が向こうに別にして畳んであった布団を指してそう言うと遊戯はにこっと笑って言いました。
「あっちは海馬くんにとっておいてあげようね」
兄サマが布団に飛び込んだりするかなあ。
どう考えてもそんなことしない気もします。
けれどモクバもこの幸せの匂いを瀬人にも味合わせてあげたい、と思いました。
遊戯が瀬人に其れを薦める時は援護射撃をするつもりです。
海馬家は、今日も平和です。
END
海馬家
みんなでお布団にダイブ!
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現世の夢
2012.04.22