■瀬人と甘い卵焼き■

海馬家シリーズ
幼稚園に通ってるチビちゃん。遊戯ちゃん手作りお弁当持参です。4、5歳くらい




海馬家とは

遊戯ちゃんと社長が夫婦で(にょたではないです)
長男は闇様で次男が乃亜王子というパラレルシリーズです。
基本は海表。
詳しくは此処から




武藤遊戯は高校を卒業すると思い切り良く海馬家へ嫁に行きました。
嫁、という表現は世間一般的には正しくないかもしれません。
武藤遊戯という人物は、小柄で細く大きな瞳が印象的な可愛らしい容姿を持ってはいましたがまぎれもなく「男の子」でしたから。
ですが海馬瀬人と武藤遊戯は「恋人同士」でありましたので海馬邸で一緒に暮らしだしたということは結婚したも同然ということでしょう。
男同士ではありましたが。
そうして二人の間に待望の第一子が生まれました。
何度も繰り返しますが二人とも男です。
普通に考えれば子供が出来るわけなどありません。
でもこの場合そんなことは些細なことなのです。
気にしてはいけません。
ここで問題なのはその生まれた男の子が遊戯が<もうひとりのボク>と呼んでいた古代エジプトの王様『アテム』の生まれ変わりだった、ということでした。

 

 

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海馬邸にはお抱えのシェフがいて食事はすべて作ってくれる。
しかし<遊戯>が幼稚園に持っていくお弁当は別だ。
どうしてもそれだけは自分が作ると遊戯が言い張ったので気の済むようにさせている。
最初のうちは焦げていたり味もイマイチだったりしたようだが今では慣れてきたらしく彩りも綺麗だ。
実際シェフが作ったものよりも見た目が多少悪くても遊戯の作ったお弁当の方が<遊戯>は喜ぶのだった。
『遊戯が自分のために作ってくれた』弁当だというのが嬉しいらしい。
少し冷ますために蓋を開けたまま置いてある小さな弁当箱の中を覗きながら瀬人は素直に美味しそうだと思った。
黄色い卵焼きが特に目を引く。
その色に惹かれるように一つ摘んで口の中に放り込んだ。
「・・・甘い」
「あー!!」
思わず呟いた後ろから大きな声がした。
<遊戯>だ。
摘み食いの現場を抑えられてしまった。
「どうしたの」
「あいぼう〜!かいばがオレのたまごやきたべたー!!」
<遊戯>は大きな声にやってきた遊戯の足にしがみ付いて瀬人の犯行を訴える。
「えー駄目じゃないか、海馬くん」
小さな子供に諌めるような口調で遊戯が言うのに瀬人はもう一度繰り返した。
「・・・甘い」
「<もう一人のボク>は甘い方が好きなんだもの」
それから小首をかしげて瀬人に問う。
「海馬くんは甘い卵焼き、嫌いなの?」
「・・いや」
甘いものはそれほど好きではない。
だがこの甘さは嫌ではない。



そう、嫌いではない。

だがこの卵焼きの甘さは何か不思議な気分になる。
何故か胸の奥がざわつくような。



「あいぼうぅ〜」
卵焼きを盗られた<遊戯>が遊戯の足元で不満気に口を尖らす。
「大丈夫だよ。もう1個あるからね」
「ほんとうか?!」
とたんにぱっと明るい顔になった<遊戯>の頭を撫でながら遊戯は言った。
「ちょっと形が悪いけど、いい?」
「うん!」
<遊戯>は嬉しそうに大きな声で答えた。
どうやら崩れてしまったものを刎ねて置いたらしい。
「かたちなんかどうでもへいきだぜ。あいぼうのたまごやきはどんなんでもおいしい」
「ありがと」
ご機嫌の直った<遊戯>につられるように笑いながら弁当箱を袋に入れる。
さらにそれを<遊戯>が肩から斜めに下げた通園カバンに入れてやると遊戯は瀬人に向き直った。
「海馬くん、今日はボクバイトだから後で行くね」
バイト、とは遊戯が海馬コーポレーションでやっているゲームのモニターなどの仕事のことだ。
週に何日かそうやって会社に顔を出している。
そして残りは実家のゲーム屋を手伝っているのだ。
遊戯もなかなか忙しい。
<遊戯>を先にドアから出しておいて遊戯は瀬人の頬に掠めるように『いってらっしゃい』のキスをした。




甘い、香りがした。



 

********


 

「海馬くんお弁当持ってきたよ」
社長室の入り口で遊戯が弁当箱を振った。
今日は昼飯をどうするか秘書が聞いてこないと思ったらこういうことだったらしい。
「有りあわせになっちゃったけど」
そう言いながら広げた弁当箱の中に黄色い卵焼き。
<遊戯>を送って行った後、忙しい合間を縫ってわざわざ作ったのだ、と気がつく。


『遊戯が、自分のために』


卵焼きを口に入れると広がる甘い香り。
「美味しい?」
「・・ああ」


「懐かしい、味がする」


瀬人はそう答えた。
甘い卵焼きなど最後に食べたのはいったいいつだっただろうか。
「海馬くんが良ければお弁当作るよ?出張のときとかは先に言ってね?」
「・・だが大変だろう」
遊戯だってバイトで短時間とはいえ働いているし、<遊戯>の面倒も見なくてはならない。
瀬人が気遣ってそういうと遊戯は言った。
「大丈夫だよ。1個作るのも2個作るのも似たようなもんだし、それに」
遊戯は笑った。
「大好きな人に『美味しい』って言ってもらえたら嬉しいしね」


その笑顔は本当に幸せそうで。


「・・・では頼む」
瀬人がそう言うと遊戯はさらに嬉しそうにえへへと笑って言った。
「海馬くん、大好き」

 

多分今自分も幸せそうに笑っているのだろう、と思った。

 

 

***************

 

 



瀬人は、夕方仕事を終えて帰っていく遊戯の後姿を社長室から見送りました。
小さい背中が歩いていくのが見えます。
このまま<遊戯>を迎えに行くのだろう。
そう思っていると遊戯は突然振り返って大きく手を振ってきました。
向こうから見えるはずもないのについ答えて手を上げそうになった自分をらしくないと苦笑しながら、でもそれが少しも嫌ではありませんでした。


明日もきっと遊戯はお弁当に卵焼きを入れてくれるでしょう。
甘い、卵焼きを。


海馬家は今日も平和です。



END

 

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愛妻弁当持参で会社に来る社長。萌え(^_^)
言えなかっただけで本当は前からチビちゃんが羨ましかったみたいですよ!(笑)
素直に自分から「作って」って言えない人(笑)


卵焼きって普通甘いのかな・・?
ウチは砂糖のときと塩味のときと両方あるんですが。

2004.05.02

 

 

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