■瀬人と遊戯と家族の記録■

海馬家シリーズ
チビちゃんハイハイからそろそろ卒業。0〜1歳。




海馬家とは

遊戯ちゃんと社長が夫婦で(にょたではないです)
長男は闇様で次男が乃亜王子というパラレルシリーズです。
基本は海表。
詳しくは此処から




武藤遊戯は高校を卒業すると思い切り良く海馬家へ嫁に行きました。
嫁、という表現は世間一般的には正しくないかもしれません。
武藤遊戯という人物は、小柄で細く大きな瞳が印象的な可愛らしい容姿を持ってはいましたがまぎれもなく「男の子」でしたから。
ですが海馬瀬人と武藤遊戯は「恋人同士」でありましたので海馬邸で一緒に暮らしだしたということは結婚したも同然ということでしょう。
男同士ではありましたが。
そうして二人の間に待望の第一子が生まれました。
何度も繰り返しますが二人とも男です。
普通に考えれば子供が出来るわけなどありません。
でもこの場合そんなことは些細なことなのです。
気にしてはいけません。
ここで問題なのはその生まれた男の子が遊戯が<もうひとりのボク>と呼んでいた古代エジプトの王様『アテム』の生まれ変わりだった、ということでした。

 

 

***************

 

 

「遊戯!」

 

自分を呼ぶ大きな声に続いて、<遊戯>の泣き声。
慌てて駆けつけた遊戯が見たものは床にぺたんと座ってワンワン泣いている<遊戯>と、ソファに座って憮然としている瀬人の姿だった。
憮然、というのとは少し違うかもしれない。
途方にくれているといった方がより近いように見える。
2匹のネコは赤ん坊の周りを遠巻きにうろうろし、遊戯を見つけてにゃあと鳴いた。
もちろん遊戯はネコ語は学んでいないから何を訴えているのかは理解できない。
『おなかすいたよーごはんー』とか『なでて〜』とか『あそぼう!』くらいならわかるのだが。
「よしよし、もう一人のボクどうしたの?」
遊戯はすぐに<遊戯>を抱き上げてあやし始めた。
声をかけてみるが当然相手はわあわあ鳴いてしがみ付いてくるばかりで、何があったのか遊戯にはさっぱりわからない。
何処かぶつけたか、それとも怪我でもしたのかとも思ったがそんな様子もない。
同じ部屋に瀬人が居たのだから、子供に怪我をさせるなんてそんなことはありえない。



家族はとても大切にする人だから。



そうなると何か危ないことをしようとしたのを瀬人が怒ったので泣いた、と言ったところだろうか。
しかし先ほどの声は確かに遊戯を呼んでいた。
瀬人は<遊戯>のことはあまり「遊戯」とは呼ばない。
それを考えるとこの説も間違っているように思えて結局遊戯は唯一言葉の通じる瀬人に答えを求めた。
「どうしたの?」
「・・・ああ」
しかし瀬人の答えは何処か歯切れが悪い。
基本的に瀬人はなんでもはっきりというタイプだ。
いつもはそんなことは言わなくていいのに、と思うほど余計なことまで高笑いと共に言い放つというのに。
じっと見つめると瀬人は遊戯から視線を外した。
これも珍しいことだ。
「海馬くん?」
だけど結局遊戯の問いかけに瀬人は白旗を揚げた。


「・・・そいつが、立ちそうだったから」


遊戯は瀬人の言葉を反芻する。
それからようやくどんな状況だったかを飲み込んだ。
ネコと遊んでいた<遊戯>が掴まり立ちをしようとしたのだろう。
ハイハイは出来るけれど<遊戯>はまだ立ったことはない。
初めての『たっち』。
もちろん親にとっては一大イベントだ。
だから瀬人は遊戯を呼んでくれたのだろう。
遊戯もその瞬間を見たいだろうと思ったから。


一緒に、家族のイベントを見るために。


だが大きな声を出したため、驚いた<遊戯>が泣き出してしまったのだろう。
瀬人の行為は裏目に出てしまったわけだ。
告白を終えた瀬人はちょっとむっとした顔で横を向いている。
不貞腐れたようなその顔を見ながら遊戯は笑みが零れるのを止められなかった。


本当は優しいのにそれを表に出すことが不得手な、素直でない人。



ソファの上でむっつりと押し黙る瀬人に遊戯は近づいた。



高校のころから社長として働いていて、自分よりもずっと大人だと思っていた。
何でも出来るの人なのだと、思っていた。
だけどこんな一面も持ってる。


可愛いなぁ、と思う。
この感情は『愛しい』の方が近いだろうか。


「えへへ」
「何をにたにたしている」
遊戯が笑うと瀬人は不機嫌に言った。
「海馬くん大好きだよ」
そう言って頬に口付けてやる。
予想もしていなかったであろう遊戯からのキスに瀬人が驚いた顔をした。


自分だけが見ることの出来る表情に、遊戯は満足そうにまた笑った。

 

***************

 

 
「どうせならこちらにしろ」
瀬人が自分の唇を指差しながら空いている片手で遊戯を引き寄せました。
「わわ・・っ」
瀬人の前に立っていた遊戯はバランスを崩してソファに片膝を付きます。
まさに二人の唇が重なろうとした瞬間、遊戯の腕の中の<遊戯>が再び激しく泣き出しました。
「よしよしどうしたのもう一人のボク」
「・・・ちっ」
 

瀬人がした小さな舌打ちは残念ながら遊戯には届きませんでした。


 


それでも海馬家は今日も平和です。



END

 

 





今回はチビちゃんに軍配があがりました(笑)


 

2004.08.06

 

 

>戻る