遊戯ちゃんと闇様が社長のうちでメイドのバイト。
女装ですので注意。
遊戯は鏡の前で大きなため息をつきました。
鏡の中には青い肩口の膨らんだワンピースに白いフリル付きエプロンを来た「メイドさん」が映っています。
そう、遊戯自身です。
自分で言うのも何ですがどう見ても男子高校生には見えませんでした。
あの後遊戯はイシズに連れられて海馬邸にやってきました。
メイドなんか嫌だ、ということを何とかイシズに理解してもらおうと遊戯としてはとても努力したのですがその努力も無駄に終わったわけです。
何より<遊戯>が大変乗り気だったのが敗因でした。
何しろこの『仕事』の目的は千年アイテムの謎を探ることです。
千年アイテムのことを知るということは<遊戯>の記憶を取り戻すことにも繋がります。
<遊戯>がやる気なら遊戯とて協力は惜しみません。
でもメイドの服を着るのは健全な男子高校生としてどうしても嫌なのでその辺は<遊戯>に任せてしまおう、と遊戯は軽く考えていました。
鏡を見ながら自分の認識がつくづく甘かったことを反省します。
今更ですが。
海馬邸にはいる前にイシズは何やら怪しい行動をしました。
屋敷の周りをぐるりと一周し、口の中で呪文を唱えます。
それから持ってきた千年アイテムを遊戯の前に並べてまた不審な踊りを披露するのでした。
「・・・何やってるんですか?」
不安になった遊戯の問いにイシズはにっこり笑って言いました。
「すぐにわかります」
イシズの笑顔に遊戯はさらに不安を募らせました。
イシズの行動は魔法とかおまじないとかと言うより「呪術」、呪いの類のように思えたのです。
実際そちらの方が近い感じでした。
イシズの言ったとおりすぐに結果は表れました。
海馬家の門をくぐったとたん遊戯は眩暈に襲われたのです。
そして気がつくと、隣に<遊戯>が立っていたのでした。
・・・実体を持って。
「海馬邸の中にいる間だけ身体が分かれるようにしました」
何をどうしたのかさっぱりわかりませんが遊戯と<遊戯>は二人に分かれたのです。
お互いに触れ合えると言う現実に驚いている2人にイシズはいつもの調子で言いました。
「2人で協力して、千年アイテムの謎を探ってください」
こうやって実体を持てたのだから記憶はもうこの際どうでもいい、ってな気分になっていた<遊戯>の心のうちを見透かしたようにイシズは付け加えました。
「先ほども言いましたがこれはこの屋敷の中だけですから」
「1人より2人の方が仕事がはかどるでしょう?」
にっこり笑ってそう告げるイシズに遊戯は反論することが出来ませんでした。
そこで冒頭に戻ります。
鏡の前で深い深いため息をついた遊戯の後ろからウキウキとした声が言いました。
「似合ってるゼ相棒☆」
心底そう思っているらしい<遊戯>の賛辞に遊戯は暗く答えます。
何度も言いますが遊戯は自分の容姿にかなりなコンプレックスを持っていますのでこんな格好が似合うなどと言われたくないのでした。
「キミもね」
「そうか?」
遊戯としては珍しくイヤミを少々込めたつもりだったのですが、<遊戯>は嬉しそうにくるりとターンして見せました。
ふわり、とスカートが揺れます。
遊戯とは違った雰囲気で似合っているのは事実です。
<遊戯>にとって女装だとか似合うとかそういうことは実は全然問題ではないのでした。
『相棒とお揃い』とか『相棒に誉められた』とかいう方がよほど重要なのです。
しかしそんな<遊戯>の様子を見ていた遊戯は思いました。
とっても嬉しそうだなぁ、もう一人のボク。
そうだよね、千年アイテムの謎がわかれば記憶も戻るかも知れないんだもんね。
<遊戯>の思考とはかなり明後日の方向にずれていますがとにかく遊戯は思いました。
ここは大好きな<遊戯>のために一肌脱ぐべきだと。
たとえこの格好がどんなに嫌でも。
<遊戯>のためです。
我慢なんていくらでも出来ます。
そして一度、『やる』と決めたのなら遊戯はかなり開き直りが早い方でした。
「よし!頑張ろう!!」
遊戯は握ったこぶしを勢いよく振り上げました。
エイエイエオー!
といった感じです。
しかしそのとたんメイド服の袖が近くにあった壺に引っかかりました。
がっちゃん!!
派手な音がして壺は床に落ち、砕け散りました。
「・・・・」
幸先のいいスタートとはとても言えません。
遊戯は高そうな壺を壊したことで青くなりました。
いきなりクビかもしれません。
あわあわする遊戯を尻目に<遊戯>は『自分がやった』と言うためにさらにその壺を粉々に粉砕するのでした。
遊戯が怒られないように。
パニックを起こしていた遊戯がはっと気がついたとき壺は元が何かわからないほど細かくなっていました。
原型を留めていません。
そしてこれがクラッシャーメイド遊戯の伝説の始まりだったのです。
END
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2003.04.23