■クラッシャーメイド遊戯・番外編「お出迎え」(闇表・海表)■

クラッシャーメイド遊戯
遊戯ちゃんと闇様が社長のうちでメイドのバイト。
女装ですので注意。











「あ、海馬くんだ」 
瀬人が帰ってきました。
窓から車を確認した遊戯はほうきを持ったまま部屋を飛び出しました。
ご主人様をお迎えするのもメイドの大切な仕事です。
階段を駆け下りる際、ほうきの柄を柱にぶつけてちょっと傷を作ってしまいましたが、もう瀬人が玄関のドアをくぐりそうな気配がしたのでメイド頭さんへの報告は後回しです。
今日の遊戯はいつものリボンの代わりにお花のコサージュを着けていました。
海馬邸のメイド服は支給されている小物類もかなりバリエーションがあるのです。
この間瀬人が遊戯のために作らせたオーダーメイドの靴がお花の付いたデザインなので丁度お揃いになっています。
もっともこのコーディネートをしたのは遊戯自身ではなく<遊戯>ですが。
「この方が可愛いぜ!相棒!!」
こんな格好を可愛いと言われても遊戯は本当に少しも嬉しくありません。
むしろ嫌なんです。
何度も言いますが遊戯だって男の子ですから。
けれど<遊戯>があんまり嬉しそうに言うのでついその通りにしてしまうのでした。
遊戯は<もうひとりのボク>が大好きです。
大好きな人の笑顔はやはり嬉しいのです。
それが自分に因るものだとしたらなおさらでした。

「お帰りなさい、海馬くん」
「ああ」
何とかで迎えに間に合った遊戯はほうきを後ろ手に隠しながら言いました。
にっこり、笑顔。
これが遊戯の最大の武器であることは本人はまったく気が付いていません。
瀬人に対してもそれはかなり有効なようでほんの少し動きが止まりました。
しかしすぐに何事もなかったかのように遊戯に聞いてきます。
「・・今日は何を壊したんだ」
帰ってきていきなり壊したものを主人に訊ねられるメイドもかなり珍しいんじゃないでしょうか。
というか、そんなメイドはすぐにクビになってしまうと思います。
けれども此処では当然のように繰り返されていることなのです。
壊したものの報告はメイド頭さんにすることになっているのですが最近は主人である瀬人に直接言うことが多いのでした。
「え、えと今日はそんなに壊してないよ」
遊戯は答えました。
“そんなに”という時点でかなり間違っている気がします。
いつもはもっとたくさん破壊していると言うことですから。
「海馬くんの部屋のドアが上手くあかなくて叩いたら壊れちゃったのと、こけそうになってカーテン掴んだら破けちゃったのと、ほこりを払おうとして壁にかかってた絵を落としちゃったのと・・・」
遊戯の破損物報告はまだ続きます。
「あと柱にちょっと傷をつけちゃった」
それでも今日は本人申告のとおり被害状況としてはそれほど酷くはありません。
金額的に言っても数十万円と言ったところでしょうか。
「あ、でも絵は平気だから!額縁はちょっと壊れちゃったけど」
実を言うとちょっとではなくかなりバラバラになったのですが。
それをほうきで掃いているところだったのです。
でも本当に遊戯は気をつけてはいるのでした。
自分が何もないところでコケるのが得意だということもわかっているのです。
だけど気をつけて緊張すると余計何かしでかしてしまうのでした。
「・・・・ごめんね、海馬くん」
「別にかまわん」
遊戯がこの海馬邸でメイドを続けられるのは瀬人が自分の興味のないものには無頓着であるというのが大きな要因です。
100万も200万もする壺や絵画、皿、置物、その他のものは瀬人にとってさして意味を持たないものでした。
多分瀬人はお気に入りの青眼型戦闘機を壊されたときのほうが怒ると思います。
「たいしたものじゃない・・」
ひゅっ!
言葉を続けようとした瀬人の目の前に鋭い音を立てて何か飛んできました。
「・・・!」
さすがとしか言い様のない反射神経の良さを披露して避けた瀬人のすぐ後ろの壁にぶつかってそれは粉々に砕け散りました。
ガッシャン!!
「相棒、今のリストに壺を加えといてくれ」
壺の飛んできた方向から声がしました。
もちろん<遊戯>です。
「俺を狙って投げるな!」
瀬人の怒りは尤もです。
何処のメイドが自分の主人に壺を投げたりするでしょう。
「悪いな、海馬。手が滑ったんだ」
<遊戯>はそう言ってデュエルで素晴らしい引きの良さを見せたときのようににやり、と笑いました。

嘘つけ!!

今心の中で思わず突っ込んだ方、正解です。
もちろん瀬人もそう思いました。
だけれどこの海馬邸では瀬人が主人です。
向こうが王様だろうが何だろうが此処では瀬人の方が偉いんです。
尤も瀬人も何処にいようが“オレ様”な性格はしていますが。
「まあいい。片付けておけよ」
とりあえず瀬人は壺の破片の掃除を<遊戯>に言いつけました。
遊戯が持っていたほうきを取り上げて<遊戯>に押し付けます。
<遊戯>は不満そうでしたが仕事中なのは確かでしたので大人しくそれを受け取りました。
「遊戯」
瀬人は当然のように掃除を手伝おうとしている遊戯を呼び止めました。
「お前は来い」
「ちょっと待て、海馬!!」
後ろで<遊戯>が抗議の声をあげましたが瀬人は当たり前のようにさらりとシカトして遊戯を連れて行ってしまいました。
自分の部屋へ。


 

「仮眠を取るから10分立ったら起こせ」
部屋に入るなり瀬人は置き時計を指し示して言いました。
瀬人が遊戯を自室へ連れ込んだことで、ナニか期待をされた方がいらっしゃいましたらお詫び申し上げます。
ぺこり。
とにかく瀬人は遊戯に“自分の起こす”という仕事を申し付けるとソファに横になりました。
あっという間に寝息を立て始めます。
社長として忙しい瀬人は僅かな時間でも睡眠がとれるように寝つきはいいようです。
あまりの早さにしばらく遊戯はぽかんと口を開けていました。
が、はっと気が付いて時計を確認します。
重要な仕事を仰せつかりました。
きちんと任務を遂行しなければなりません。
大袈裟だと思われるかもしれませんが遊戯は本気でそう思いました。
いつもいつもいつもいつもバイトに来ているというよりモノを壊しに来ている遊戯はそれを大変申し訳ないと思っているので。
<遊戯>は多分、全然悪いと思っていませんが。
とにかくここらでちょっと汚名返上しておかなければなりません。
メイドの格好をするのは嫌ですがこの仕事は続けたいのです。
千年アイテムの謎を解く鍵を見つけなければなりません。
『もう一人のボク』のために。

10分の間遊戯は置時計とじっと睨めっこしていました。
何か上に掛ける毛布でも持ってきたあげた方がいいかな、とも考えましたが余計な行動を取ってまた何か失敗するのも嫌です。
今日の被害は報告済みの分だけに留めたいのです。
遊戯は時計を握り締めてじっと立っていました。
そうして遊戯にとっては長い時間が過ぎました。
時計を持ったまま起こすために海馬に近づきます。
慎重にしていたつもりでしたが思わぬところに穴がありました。
遊戯は何もないところでも転ぶことが出来るのです。
毛足の長いじゅうたんに足をとられてコケてしまったのです。
かなり慎重に事を運んでいたつもりだったのにこれは大誤算でした。
いきなり時計ごと腹の上に倒れこんできた遊戯に驚いて海馬は飛び起きました。
遊戯の方は時計を落とすまいと必死になって両手で持っているので上手く起き上がれません。
そうしてバタバタしている丁度其処へ掃除を終えた<遊戯>がやってきたのでした。



 

・・・本日の破壊物リストにもう一項目増えるまで、後2秒。



それでも今日は被害状況としてはまだマシな方です。



 

 

 

END






このシリーズ、ちまちま続けていっていつかメイド戦隊を作るのが夢(笑)



2003.09.01

 

 

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