バレンタインに社長がチョコをくれました。
小姑闇様シリーズとは
遊戯ちゃんを溺愛してる闇様が
大事な相棒を守るため邪な心を持って近づいてくる輩を撃退する話(ちょっとウソ・笑)です。
遊戯ちゃん逆ハーレム状態。でも無自覚。
今日はバレンタインディだ。
まあ俗に言えばチョコレートに思いをのせて渡す日、だよな。
「まったく」
オレはぶーたれながら自販機のボタンを押した。
「何も今日来ることないのによー」
いつも全然学校に来やしないくせに何でよりにもよって今日来るんだあのシャチョウサマは。
おかげで女子たちの騒ぎ様といったら。
出てきたコーラのカップを持って、先に自販機の横に座っていた遊戯の隣に陣取る。
「でもさ、女の子の気持ちもわかるよね」
遊戯が言った。
「海馬くんカッコいいもん」
「・・・」
オレは思わず無言になる。
それから心の中で自問自答した。
カッコいいか?アレが?
それはアイツの正体を知らないからだろうよ。
第一オレの方がよっぽどカッコいいってもんだろうが。
「背高いし、ハンサムだし、頭いいし」
遊戯が自分の指を折って数えはじめる。
「何より社長さんだもんね」
うっ。
思わずオレは唸った。
それは確かにそうなんだけどよ。
まあ女ってのはアレだな、打算的なとこもあるから『社長』てのも魅力なんだろうな。
もっともヤツは30匹くらい被る猫を飼っているらしく何だかんだと当り障りの無い上手いことを言っては断っていたようだが。
「でも海馬の場合、性格の悪さでおつりがくるぞ」
あのキョーレツな性格!
めちゃくちゃ根性悪いだろうがアイツは!
オレの言葉に遊戯はちょっと困ったように首を傾げた。
「海馬くん、そんなに悪い人じゃないと思うんだけどな」
あうー。
オレは頭を抱える。
遊戯が本当に本気でそう思ってることは明白だ。
お前なー自分がどういう目に合わされたか忘れてるんじゃあないだろうな?
・・・まあ忘れてるわけじゃないんだよな。
でもアレは遊戯の中ではもう終わったことなんだ。
わかってはいるけれどオレはヤツがどうしても許せねえのでムカツクんだよな。
決闘者としては一流だとは思うけど。
でもやっぱヤツは性格が悪い!!と思う。
「あ、海馬くんだ」
遊戯がふと校舎の向こうを見て言った。
オレもつられてそちらに目を向ける。
本当だ。
かばんを持っているところを見るともう帰るつもりらしい。
早く帰れっての。
心の中でしっしっ、と追い払うように手を振ってやる。
もちろん実際はやらないけどな。
が。
海馬は遊戯を見つけるとすたすたとこちらに寄ってきた。
来るなよ!
そうして身構えるオレの目の前で遊戯に向かって箱を差し出した。
どうみても、チョコレートの箱だ。
この辺じゃお目にかからない高級そうなチョコレート。
もっと都会に出ればあるんだろうけどよ。
まあオレは『高級』なもんになんて縁が無いからよく知らないが。
「え、っと・・・海馬くんこれ何?」
勢い受け取ってしまったものの、固まってしまっていた遊戯がようやく訊ねた。
気持ちはわかる。
普通バレンタインに男からチョコレートを貰うはめになるとは思わないしな。
オレの方はヤツが遊戯をどう思ってるか、はまあ知っているので『そういう手できたか!』とか思ったが。
「見てわからんか。チョコレートだ!」
おずおずと訊ねた遊戯に海馬はそんなこともわからんのかといわんばかりの態度で応じた。
相変わらずなやつめ。
「・・・はあ」
「ちょっと待て海馬ぁ!」
言い切られて他に言い様の無くなった遊戯の代わりにオレは言った。
「何で遊戯がお前にチョコ貰わなきゃなんねーんだよ」
「吠えるな、凡骨めが!貴様には関係ないだろう!!」
「何だとこの野郎!」
何でこいつはいちいちいちいちこうムカツク言い方をするんだ!
「ちょ、ちょっと、城之内くん!喧嘩しないでよ!」
がば、と立ち上がったオレと海馬の間に遊戯が割ってはいる。
それから海馬に向き直って聞いた。
「ええと、このチョコレートどうしてボクにくれるの?海馬くん」
任せとけ、遊戯。
バレンタインだから、なんて答えやがったら速攻でつき返してやる。
「取引先で貰ったのだ」
「・・・それ、ボクにくれちゃってもいいの?」
「オレはチョコレートがあまり好きではないからな。だが取引先から貰った手前捨てるわけにもいかん」
つまり、だ。
ものすごく努力して『好意的』に今の会話をまとめるとだな。
取引先で貰ったチョコだけど、食べられないのでよかったら遊戯が貰ってくれたらありがたい、とまあこういうわけなんだが。
「貴様はチョコレートが好きだと言うからくれてやるわ!」
・・・何処をどうやったらそういう超絶偉そうな言い方になるんだてめぇは!
だいたい自分の要らないもの人に押し付けるんじゃねえよ。
オレはそう思ったけど遊戯はそうは全然思わなかったらしい。
そもそも遊戯は努力しなくても好意的な解釈が出来るやつだ。
「貰っていいの?」
すげぇ嬉しそう。
眼がきらきらしてるぜ、遊戯。
海馬は頷いてさらに大威張りで言った。
もちろんアクション付き。
いつもの調子で手を振り上げる。
あのなー威張ってるのは諦めてもいいがオーバーアクションつけるのはやめろよお前。
「開けてみるがいい!」
「うん!」
遊戯は大きな声でお返事をして包み紙を綺麗に剥がしだした。
べりべり破かないところに性格が出てるよな。
大事に大事に扱ってる、っつーか。
そんな感じ。
蓋を開けると海馬が言った。
「遊戯」
「ん?何海馬くん?」
「オレもひとつくらいは味を見なければいかん」
ああまあ一応お得意先からの貰いもんだもんな。
「あ。そうだね。はい」
遊戯もそう思ったらしくチョコの箱を海馬の方へ差し出した。
だが。
当の海馬はチョコを摘むでもなく、ただ口を開けている。
「・・・・」
・・入れろってか。
敵ながら『座布団一枚!』ってな状況だ。
‘バレンタイン’に‘遊戯’に‘チョコレート’を‘食べさせてもらう’
此処まで計算してチョコを持ってきたのなら『上手い!』と言うしかないな。
しかし。
「何だ、食べさせてもらいたいのか?海馬」
残念ながら選手交代だ。
世の中計算どおりに事が進むとは限らないよな。
「・・・・」
海馬は黙って自分でひとつチョコを掴むと口の中へ放り込んだ。
<遊戯>も同じようにひとつ摘んで口へ入れる。
・・もしかして傍から見たらこれは仲良くチョコを食べてる図に見えるんだろうか?
オレから見ると一触即発ってな雰囲気なんだが。
とりあえず負のオーラ出すのやめろ海馬!
「瀬人様!」
このままデュエルに雪崩れ込みそうだったがそれを止めた命知らずがいた。
磯野だ。
「そろそろお時間が・・・」
ああ会社ね。
アンタも大変だなー。
こんなヤツが社長で。
オレは心の底から同情した。
「この勝負、預けておく!」
海馬が鼻息も荒く言い放った。
対して<遊戯>は涼しい顔でそれを流す。
「ああいいぜ。いつでもかかって来いよ海馬」
<遊戯>が海馬に劣らず偉そうに返す。
決闘王の貫禄っつーか・・それお前海馬が怒るってわかっててそういう態度なんだよな?
結構いい性格だ。
<遊戯>は遊戯が絡むとこうなるんだよな。
案の定海馬はどかどか退場していった。
これで当分学校へは顔出さないだろうし、ま、とりあえずしばらくは平和だろう。
「食べるかい?城之内くん」
<遊戯>は何事もなかったかのようにオレにチョコを勧めてきた。
海馬のチョコ・・。
そう思うと何だか不味そうで嫌だが、しかし『高級』チョコをちょっとは食べてみたいと言うのもまあ本音だ。
「じゃ、ひとつ」
結局後者が勝ってオレは箱から1個貰って口へ入れた。
海馬みたいに遊戯にチョコを入れてもらおうなんて考えない。
まあ入れてもらえたら嬉しいかもしれないけどな。
「海馬も」
<遊戯>がもうひとつチョコを食べながら言った。
「相棒に持ってくるならもっと甘いチョコにすればいいのにな」
確かにチョコは少し苦かった。
「こんなんだったらコンビニで板チョコ買ったほうがいいなオレは」
そう言ってやったら<遊戯>はまったくだ、と言って笑った。
遊戯は板チョコでも喜んでくれそうだから買ってやろうか、などとちょっと考える。
海馬の失敗の教訓を踏まえて、上手く渡せる自信は・・・残念ながら無いが。
まあこれで満足するか。
いつの間にか戻った遊戯と一緒にちょっと苦いチョコを並んで食べる、バレンタインディ。
こんなバレンタインの過ごし方も、まあ、悪くないかもな。
END
久しぶりに小姑様シリーズ。
久しぶりすぎてなかなか進まず(^^ゞ
2004.02.14