闇様バージョン
ずっとこの穏やかな時間が続けばいいと思う。
オレがいて・・・お前がいて。
遊戯は猫を構っていた。
「ほらほら」
猫じゃらしのようなおもちゃを猫の前で左右に振る。
猫はお尻を高く上げて狙いを定めた。
飛び掛ってきた猫をさっとかわしてまたおもちゃを振る。
「こっちこっち」
猫はすばやく向きを変えてまたそのおもちゃを捕まえようとした。
それを隣で黙って見ていたもう一人の遊戯、<遊戯>が口を開いた。
『そいつ、ウチでずっと飼うのか?』
「ううん。飼ってくれる人が見つかるまでだよ」
ママがあんまり猫好きじゃないからね。
残念だけど、と遊戯は付け加えた。
『じゃああんまり構わない方がいいんじゃないか』
<遊戯>の意外な言葉に遊戯は顔を上げる。
猫がおもちゃを捕まえて跳ねた。
「どうして?」
『・・・別れるとき、つらいから』
ワカレルトキツライカラ
自分に向けて放たれた言葉。
<遊戯>の瞳がほんの少し揺れて、遊戯を映す。
同じ身体、同じ顔。
・・・でも違う心を持つ、“相棒”を。
お前のそばにずっといたいと思う、この気持ちは嘘じゃない。
でも。
自分の記憶を取り戻したいという願いも捨てられない。
記憶が戻れば何もかもがわかる。
・・・オレが何故、ここにいるのか。
今、ここに。
お前と共に。
「そうだね」
遊戯が言った。
その瞳は強い意志を秘めて・・・<遊戯>をまっすぐに射抜く。
ワカレルノハツライカラ。
知らなければ辛くなかった?
守りたいと思うのも、
一緒にいたいと思うのも、
・・・触れてみたいと思うのも。
オレを形作るすべてはお前がくれたもの。
誰かをいとおしむ、キモチ。
知らなければ、今のオレはない。
「でも会いたかったら、会いに行けばいいし」
『・・そうか』
お前の言葉はオレの心に光を射す。
その声は心の水面に波紋を作る。
そしてそれは静かに広がって・・・オレの中に吸い込まれていく。
砂漠に降る、雨のように。
「ね、もうひとりのボクも猫と遊ぶ?」
『いや、オレは・・・』
遊戯は<遊戯>に向かっておもちゃを差し出すそぶりをした。
「なんだ、ボクが猫ばっかり構ってるから拗ねてるのかと思ったよ」
からかっているかのような口調で言ってやる。
『誰が拗ねてるんだ』
<遊戯>の目が楽しげに光った。
『猫よりお前と遊びたいな、相棒?』
お前の瞳が前を見つめているのならオレも歩き出そう。
変わらない昨日より変化ある明日を選ぼう。
それでも変わらないものがあるから。
畏れず進む強さをオレはもう持っている。
でも・・今は
もう少しだけ。
END
これは闇様バージョンです。
遊戯ちゃんバージョンは昔出した本「猫になりたい」に載せました。(完売済み)
2001.08.11