もういっちょ捏造。エジプトへ行く前に社長に会いました。
前へ、進むために。
空を飛んでいる、夢を見た。
青い空を。
ボクは本当は何処までだって飛べるんだ。
こんなに気持ちよく飛んでいるのだから
キミも同じ思いを共有していると思った。
当然のように。
学校の帰り、高い塀の上に上って両手を広げてみる。
まるでそれが羽であるかのように。
頭の上に白い雲。
そのまま目を瞑ったら本当に飛べるような気がした。
自由に。
「おい」
そんな思考を剣呑な声が遮った。
聞き覚えのある、だが此処にいるはずの無い声に遊戯は目を開けた。
「何をしている」
「・・・海馬くん」
塀の下に、アメリカへ行ったはずの同級生の姿を見つけて遊戯はその名を呼んだ。
学校の前なんて珍しい所で会った、と遊戯は思う。
海馬は日本に居るときにでもめったなことでは登校してこなかったというのに。
「どうして此処にいるの」
「オレの質問が先だろう」
偉そうに言い放つ海馬は旅立つ前の姿と寸分も違わなくて遊戯は思わず笑った。
「全然変わってないねぇ、海馬くん」
海馬は遊戯の言葉に嫌そうに眉を潜める。
そんな様子も変わらなくて遊戯は嬉しそうにさらに笑った。
「ボクは」
「空を飛ぼうとしていたんだよ」
空を飛んでいる、夢を見た。
青い空を何処までも。
「くだらん」
海馬が言い放った。
「人は飛ぶことなど出来ん」
海馬はいつでも現実的だ。
それもまた変わらない。
千年アイテムも信じようとはしなかった。
本当のところはどうだかわからないが。
「飛ぶことが出来ないからこそ人は機械を使う」
空を飛びたいがために人が発明したもの。
飛行機。
「飛びたいのなら今度オレのブルーアイズに乗せてやってもいいぞ」
「本当?」
海馬の言う『ブルーアイズ』とはバトルシティ決勝の地、通称アルカトラズから自身が脱出するときに使った戦闘機のことだ。
そういえばあれは『戦闘機』だった。
戦闘機とは思えない外観と、戦闘機としては使えない装備。
嗚呼、あれで海馬は空を飛べるようになったのだ。
遊戯は唐突にそう理解した。
海馬を地に縛り付けていたのは自分で作り出した『義父の亡霊』
では<遊戯>を此処に縛り付けているのは?
ボクは本当は飛ぶことが出来るんだ。
だけどキミはそれを知らなくて。
ボクを、心配してる?
「いつまで其処に居る気だ」
思考に落ちそうになる遊戯を不機嫌な声が再び遮った。
「ああ、うん。今降りるよ」
しかし腕組をした海馬が丁度遊戯の着地予定地へ立っていてどうにも降りようが無い。
「海馬くん、悪いけど其処ちょっと避けてくれない?」
「ふん」
だが海馬は遊戯の願いを無視してさらに一歩塀へ近づくと遊戯の脇に手を入れて抱え上げた。
「わっ、ちょ、ちょっと海馬くんっ」
遊戯が抗議をする間もなく小さな身体はとん、と地面へ下ろされる。
「・・・ありがとう」
釈然としなかったが塀から降ろしてくれたことは事実なのでとりあえず礼だけは言っておく。
「オレは手続きのために一時帰国した」
「・・・手続き?」
「向こうで入り直すためにな」
いきなりな海馬の言葉が最初の遊戯の問いに答えたものだと気がつくのに数秒かかった。
「社長が高校中退では格好がつかんからな」
童実野高校を正式に中退した、ということなのだろう。
そうしてアメリカで高校に入るか、または試験を経て高卒の証明を得大学へ通うのか。
確かに向こうなら飛び級制度もあることだし海馬なら難なく大卒の称号を得られるだろう。
ほんの少し寂しいけれど
海馬は前に進んでいるのだ、と感じた。
ボクは本当は飛ぶことが出来るんだ。
だからボクも前に進まなきゃ。
「頑張ってね、海馬くん」
遊戯は笑って言った。
「ボクも頑張るから!」
まるで宣誓のようにそう付け加える。
海馬もほんの少し笑った気がした。
ボクは本当は飛ぶことが出来るんだ。
キミも本当は何処までだって飛べるんだ。
だから
ボクのことは気にしないで。
ボクは大丈夫だから。
・・・大丈夫、だから。
パズルを入れたかばんを抱えて、家へ走る。
前へ進むために。
エジプトへ発つ日は、すぐ其処に迫っていた。
END
もういっちょ捏造話(^^ゞ
闇様不在ウラオモ。
今度は社長で。
社長学校はどうしたのかねぇ。
2004.02.07