パズルが入っていた箱に今入れてあるものは。
「それはダメ」
<もう一人のボク>が手にしたそれをボクは横から取り上げた。
おもちゃの山に埋もれていたから目立たないかと思ったのに。
<もう一人のボク>は目ざとい。
「何故?」
「なんででもー」
ダメと言われれば気になるものだよね。
わかってるけど、コレはダメ。
ボクは両手で箱を抱えなおす。
千年パズルが入っていた箱。
もちろん本物はちゃんと現実の自分の部屋にあって、今はカード入れに使っている。
「じゃあゲームでオレが勝ったら中身を見せるってのはどうだ?」
「やだよーだ」
ボクは彼に向かって舌を出して見せた。
「なんだ勝つ自信がないんだな?」
ふふん、と言ったカンジで鼻で笑らわれて、ついムキになってしまう。
「やるよ!負けないからね!」
「そうこなきゃな」
売り言葉に買い言葉。
乗せられた気がするんだけど気のせいかな。
<もう一人のボク>はボクの実は負けず嫌いな性格を良く知ってる。
でも。
ホントは<もう一人のボク>に見てもらいたかったのかも。
「・・・これでお前のライフポイントはゼロだ」
「惜しかったなぁ」
いいとこまで行ったんだけど結局ボクが負けて箱の中身を披露する羽目になった。
<もう一人のボク>が金色の箱を開ける。
一瞬、そこに隠しておいたモノが飛び出してくるような気がした。
「なんだ、何も入ってないじゃないか」
空っぽの箱を覗き込んで<もう一人のボク>が言う。
ちょっとがっかりしたみたいだ。
「入ってるよ」
ボクは悪戯っぽく笑って言う。
<もう一人のボク>が箱から顔を上げた。
その視線をちゃんと捕らえてゆっくり言う。
「そこに入ってるのは“見えるけど、見えないもの”だよ」
「友情、か?」
「違うよ」
<もう一人のボク>が言った。
ボクは首を横に振る。
「それは城之内くんの“答え”でしょ」
人によってその答えは違うんだ。
自分で見つけたものが本当の答え。
“見えるけど、見えないもの”
ボクの答えはボクにしかわからない。
本当は見てもらいたかったのかも。
「見えるけど、見えないもの・・・」
「わからない?」
<もう一人のボク>が考え込んでしまったのでヒントを上げることにした。
「ヒントは“王様の耳はロバの耳”だよ」
「ロバ?」
エジプトの王様だったらしい、ということだけがわかっている<もう一人のボク>はフクザツな顔をした。
「お話だよ、知らない?」
ボクはかいつまんで内容を説明する。
王様の耳がロバの耳だったことを誰かに喋りたかった床屋さん。
誰かに聞いてもらいたくて仕方なかった。
「それのドコがヒントなんだ?」
<もう一人のボク>は怪訝そうだったけどこれ以上のヒントはナシ。
「そこまで教えたらヒントじゃないじゃない」
今日はもう遅いから、と言って<もう一人のボク>を見送って心の部屋の扉を閉める。
本当は見てもらいたかったのかも。
・・・気がついて欲しかったのかも。
箱に入っていたのは僕の声。
行かないで。
行かないで。
ずっと、一緒に・・・・いて。
僕の声はキミに届かない。
END
闇様が帰ってしまう前に書いて
仕上げずに放置しておいたものを引っ張り出したものです。
2005.05.01